2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
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パワーハラスメントを理解する
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1. 職場のハラスメント問題
日本で職場のハラスメント問題が取り上げられ始めたのは、1987年ころからと言われています。
最初のころは、いわゆるセクハラ問題が取り上げられていました。
その後、雨後の筍のように、パワーハラスメントやモラルハラスメント等、様々なハラスメントの概念がでてきて、今では30種類以上のハラスメントが溢れています。
2. 職場のハラスメント問題を防止する必要性
職場のハラスメント問題を放置した場合、会社の経営に深刻な影響が生じます。
被害者やその他の従業員の心身に悪影響を及ぼすことは勿論のこととして、職場全体の生産性や意欲を低下させ、企業のイメージを悪化させ経営上大きな損失を生じさせることになります。
特に、最近はどの業界でも人手不足が問題になっていますが、そのような社会情勢の中で、一旦、世間から「ハラスメントが行われる会社だ」というイメージを持たれてしまうと、企業が有為な人材を確保することは難しくなります。
このように、職場でハラスメント問題が生じないようにすることは、全ての企業にとって無視できない重要な課題の1つになっています。
3. パワハラ防止法
2019年5月、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立し、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行されています。
同法30条の2第1項は、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定しています。
噛み砕いていえば、
(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
(3)労働者の職場環境が害されるもの
が、パワーハラスメントということになります。そして企業が「必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じない場合には、是正措置の対象になってしまいます。
4. パワーハラスメントか否かの判断基準
よく聞くのは「業務上の適切な指導や指示と、ハラスメントとの線引きが難しい。(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」の線引きをどうすればよいかという話です。
お勧めしているのは、以下の3つの判断基準です。
(1)目的が正当なものか
(2)手段が相当なものか
(3)目的と手段の間に合理的な関連性があるか
という3つの観点から、各人の行動をチェックして頂くことを、お勧めしています。
例えば、従業員をいじめてやろうとか、この機会に嫌がらせしてやろうといった目的で指導をするような場合には目的は不当なものと考えられます。
また、目的は正当であったとしても、些細なミスにも関わらず大声で叱責したり、遂行が不可能な業務を行わせたりしたのでは、業務上の指示や指導としては手段が相当なものとは解されないでしょう。
さらに、目的は正当であっても、殴ったり、蹴ったり、無視したりしたのでは、目的と手段には合理的な関連性は認められないでしょう。
逆に、部下を指導する上司の立場でも、自身の言動が上記の3つの観点に照らして適切なものかどうかをチェックしていくことで、変に萎縮したり、過度に遠慮したりすることなく、部下に対して、業務上、必要かつ適切な指示や指導を行うことができるようになると思います。
5. 小括
職場は人の集まりです。そこに所属している人が、円滑にコミュニケーションをとり合い、伸び伸びと各人の役割を全うし、それぞれの能力を発揮することができなければ、会社を健全に維持し、成長させていくことは困難です。
円滑なコミュニケーションを阻害する大きな要因になり得るパワーハラスメントの概念を正しく理解し、パワーハラスメントの予防・職場環境の改善につなげてください。
弁護士 奥山 倫行
