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【事業承継1】事業承継の現状と類型

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1.ごあいさつ
 
 アンビシャス総合法律事務所の弁護士髙塚慎一郎と申します。今回、メールマガジンの記事を担当することになり、事業承継をテーマに連載させていただくことにしました。
 
 お客様と事業承継の話題になった際、「知っているけど準備はしてない」という状況に触れることがあります。また、事業承継というと、大企業間の株式譲渡や合併・分割等のいわゆる「M&A」を思い浮かべる方が多いという印象を受けます。しかし、事業承継は、法人・個人を問わず、事業者にとって、いつかは直面するとても身近な問題です。
 
 そこで、この連載を通して、少しでも事業承継についてお伝えできればと考えています。

2.事業承継の現状
 
 まず、事業承継の現状についてです。ここでは、中小企業の事業承継にフォーカスしてお話ししようと思います。
 
 中小企業は、我が国の企業数の約99%を占めるとされており、日本政策金融公庫総合研究所が2020年に公表した調査によれば、調査回答企業4759社の経営者の半数以上が、「廃業予定」と回答しており、廃業の理由については、「子供がいない」「子供に継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難を挙げる経営者が合計で29.0%に達しています。そして、「廃業予定」と回答した企業の経営者のうち、約3割の経営者は、「同業他社よりも良い業績を上げている」と回答し、約4割の経営者が、「今後10年間は現状維持が可能」と回答しています。
 
 上記の調査結果の詳細は、以下の中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」(以下「ガイドライン」といいます。)からご確認いただけます。

 この調査結果から分かるように、我が国には、経営の存続が可能であるにもかかわらず、後継者難によって廃業を予定しているという中小企業が多く存在します。これらの中小企業は、将来的に事業承継が行われなければ廃業することになります。そうなれば、従業員は職を失うことになりますし、その企業が持っていたノウハウや技術なども失うことになります。逆に言えば、事業承継がうまくいけば、従業員の雇用も確保できますし、ノウハウや技術も次の世代に引き継がれるのですから、事業承継がうまくできるか否かは、社会的にも重大な問題であるといえます。


3. 事業承継の類型 

 次に、そもそも、「事業承継とは何か?」についてお話しします。
 「事業承継」という言葉は、法令に定義が存在するわけではありませんが、ガイドラインによれば、三種に類型化して説明されています。具体的な内容は以下のとおりです(ガイドラインより引用)。

① 親族内承継
 現経営者の子をはじめとした親族に承継させる方法である。一般的に他の方法と比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能であること、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できるといったメリットがある。

② 従業員承継
 「親族以外」の役員・従業員に承継させる方法である。経営者としての能力のある人材を見極めて承継させることができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがある。

③ 社外への引継ぎ(M&A)
 株式譲渡や事業譲渡等により社外の第三者に引き継がせる方法(以下「M&A」という。)である。親族や社内に適任者がいない場合でも、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社売却の利益を得ることができる等のメリットがある。さらに、M&Aが企業改革の好機となり、更なる成長の推進力と なることもある。

 お客様とお話しする際、「事業承継」という言葉が出ると、③の「社外への引継ぎ(M&A)」というイメージをお持ちの方が多いようです。しかし、①親族内承継、②従業員承継も、事業承継の類型であると考えられています。
 分かりやすく言うと、経営者の「跡継ぎ」を誰かにするかという問題が、「事業承継」なのであり、そう考えると、事業承継がすべての事業者が直面し得る問題であることがイメージしやすいかと思います。

 本稿では、事業承継の現状と類型について説明させていただきました。次回以降は、事業承継の進め方や注意点等、掘り下げた内容をご紹介する予定です。連載を通して、お読みいただいた方が事業承継について検討するお手伝いができればと考えていますので、お付き合いいただければ幸いです。

弁護士 髙塚 慎一郎