1. 公布日・施行日
公布日:2022年11月28日
施行日:2023年4月1日
※労働基準法を法といいます。
※施行日前の労働基準法施行規則を現行法規則といい、施行日後の労働基準法施行規則を改正法規則といいます。
2. 知っておくべき改正ポイント
賃金の支払方法に、賃金のデジタル払いが加わる
3. 改正の概要
(1) デジタル払いとは
デジタル払いとは、企業が銀行口座を介さず、厚生労働大臣が指定する資金移動業者が提供するスマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して給与を振り込むことをいいます。
(2) 改正法規則の内容
法では、賃金の支払いは通貨払いが原則です(法24条1項)。しかし、これまでは例外として、金融機関の預貯金口座に振り込んで支払うことができるとされています(改正法規則7条の2第1項)。そして、改正により、例外として、デジタル払いが追加されました。デジタル払いの導入にあたってのポイントは以下のとおりです。
① 使用できる決済サービスの提供業者が「指定資金移動業者」であること
労働者が使用できるサービスは「指定資金移動業者」が提供するものに限られております。
「指定資金移動業者」とは、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者であって、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者をいいます(改正法規則7条の2第1項3号)。この場合の「一定の要件」は、以下のとおりとされています(一部抜粋)。
- 破産などした場合に、労働者に対して負担する債務(=口座に預けているお金)を速やかに労働者に弁済する仕組みを有していること
- 口座残高上限額を100万円以下に設定するための措置または100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること
- 第三者の不正利用などにより労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること
等
② 使用者に求められる措置
使用者がデジタル払いを実施するために必要な手続きは、主に以下のとおりです。
- 労使協定の締結(基発1128第4号令和4年11月28日)
労働組合又は労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結する必要があります。
労使協定では、デジタル払いの対象となる労働者の範囲、賃金の範囲・その額、使用者が取扱う指定資金移動業者の範囲及び実施期間等を定めます。
- 労働者への説明と個別の同意の取得(改正法規則7条の2)
使用者は、デジタル払いの留意事項等を説明した上で、労働者から同意書を取得する必要があります。
説明事項としては、資金移動業者口座の資金、資金移動業者が破綻した場合の保証、資金移動業者口座の資金が不正に出金された場合の補償等です。
同意書の書式は以下のとおりです(引用:001017091.pdf (mhlw.go.jp))

(3) 導入のメリット・デメリット
◆導入のメリット
- 銀行口座を持たない従業員へ給与デジタル払いでの支給が可能となり、外国人労働者、日雇労働者など口座開設が困難であったり、口座情報の把握が難しかった者も雇用できるようになります。
- 決済サービスのキャンペーンを使えたり、労働者のニーズに対応したりと、従業員への福利厚生の向上や企業イメージの向上につながります。
- 決済サービスへの送金に手数料がかからないことがほとんどであり、振込手数料の削減が可能となります。
◇導入のデメリット
- 決済サービスを提供する資金移動業者が経営破綻した場合の補償や迅速な払い戻し、セキュリティの不備による不正送金等への対応が必ずしも十分とは言えません。
- 給与の支払方法が多様化することで、システム運用の手間が増えたり、運用フローを再構築したりする必要があります。
4.まとめ
今回の改正により、賃金の支払方法にデジタル払いが追加されました。デジタル払いを導入することで、労働力不足の解消や振込手数料の削減等一定のメリットが考えられます。デジタル払いについてご検討されていない場合、一度ご検討してみてはいかがでしょうか。気になることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
弁護士 森谷 拓朗
