2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
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悪質クレームの見極め
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1. クレームには2種類ある
お客さまがいる限り、クレームは不可避的に発生します。多くの会社では、クレーム対応に関する研修会を開催したり、接客対応マニュアルを整備したり、実際の対応事例を持ち寄って経験交流の勉強会を開催したりしながら、接客技術の向上に努めていることと思います。
ところが、どんなに研修を重ねたり、充実した接客対応マニュアルを用意したりしていても、クレーム対応に絶対的な自信があって、どんなクレームでも解決できると胸を張って言い切れる会社は、殆ど存在しないのではないかと思います。誰もが、社内の従来のクレーム対応や対策に絶対的な自信を持てないまま、日々のクレーム対応を行っているのが実情ではないでしょうか。
クレーム対応に自信がもてない理由は、これらの対応や対策に、クレーム対応の現場において意識すべき重要な視点が抜け落ちてしまっているからです。
その視点というのが、クレームには「通常のクレーム」と「悪質クレーム」の2種類があるということです。「通常のクレーム」というのは、普段の接客対応で解決可能なクレームです。他方、「悪質クレーム」というのは、普段の接客対応では解決不可能なクレームです。この「悪質クレーム」に対しては、いくら誠意をもって通常の接客対応を進めたとしても解決に至ることはできません。そのため、「悪質クレーム」と見極めることができたら、無理に自分たちだけで解決しようとせず、早々に弁護士や警察等の第三者に相談し、これらの第三者の助力を得ながら対応することが重要です(図表参照)。

2.「悪質クレーム」の判断基準
問題は「通常のクレーム」と「悪質クレーム」をどのように判断するかです。他にも幾つかのポイントがあるのですが、誌面の都合もありますので、今回は「悪質クレームかもしれない」と判断して頂きたい3つの場合を紹介させて頂きます。
① これまでの知識と経験で誠意をもって対応しても解決ができない場合
不平や不満を述べている相手に対して、誰しも、それまでの知識と経験に基づき、相手の不安感や不満感を取り除いたり、不信感を払拭したりするために、可能な限りの対応を行おうとする筈です。それにも関わらず、相手の満足を得られない場合というのは、既に自分たちの知識や経験で解決できる範囲を超えてしまっている状況にあります。そのため、このような場合には、無理に自分たちだけで解決しようとせずに、これまでの自分たちの知識や経験に欠けている点はないかも含めて、弁護士等の第三者の助言を得ながら解決案を検討することが大切です。
② こちら側の最大限の譲歩案を提示しても解決ができない場合
多くの方は、クレーマーと呼ばれるような相手に対しても、何とか怒りや不満を沈めて貰えるように、自分たちができ得る最大限の解決案を提示していると思います。そして、事後的にクレーム対応の相談を受ける弁護士の立場からすると、このような場合の提示内容の多くは、既に、法律が要求する水準以上になっていると感じています。そのため、このような場合にも、一度、弁護士に相談して頂き、社会一般的にみて、解決案が適切妥当なものかを改めて検証し、場合によっては、裁判制度の利用も視野にいれつつ今後の対応を検討することが大切です。
③ やりとりの中に刑事犯罪に該当し得る事情が含まれている場合
相手が法律の範囲内で行動しているのであれば、こちらも法律の範囲内で対応し続けていけば解決の途が見えるかもしれません。しかし、相手が法律で許される範囲を超えて違法な言動を行うような場合には、こちらがいくら誠意ある対応を続けても解決の糸口は見えません。具体的には、営業時間外に店舗に居座る、暴れて暴行する、脅す、強要する、店舗内で大声を出してわめきちらす、インターネット上で商品や会社を誹謗中傷する等の行為はいずれも刑事犯罪に該当する場合がありますので、このような場合には、警察等の捜査機関の力を借りて解決することが必要です。
弁護士 奥山 倫行
