2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
:::::::::::::::::::::::::::::::
従業員による不適切動画の投稿
:::::::::::::::::::::::::::::::
飲食店やコンビニエンスストアの従業員が、インターネット上に不適切な動画をアップロードして、その動画がインターネットを通じて拡散され、会社が対応に追われるニュースや報道は後を絶ちません。
同種の騒動が連発したことは過去にもありましたが、一旦この種の事件が発生してしまうと、企業も看過し難いマイナスの影響を受けることになります。企業の側でも、時代の変化に応じて、適切な対応策を講じる必要があります。
1. 企業に生じる影響
牛丼チェーンの「すき家」のアルバイト店員が、店内の氷を床に投げたり、調理用のお玉を股間に押し当てたりする子を撮影した動画や、回転寿司チェーン「くら寿司」のアルバイト従業員が、ゴミ箱に廃棄した魚の切り身をゴミ箱から拾ってまな板に載せ直して調理している様子を撮影した動画をテレビのニュースなどで目にした方も多いと思います。
そして、これらのニュースでは、これらの不適切動画の内容に加えて、「毎週のように食べに行っていたけど、もう行く気がしなくなった」とか、「子どもも好きなお寿司屋さんだったけど、子どもを連れていくのが心配になった」とか、事件を受けて企業に対するマイナスイメージをもった消費者の声も一緒に報道されています。
一旦このような報道がされてしまうと、企業の業績悪化や信用の毀損は想像に難くありません。また、テレビだけではなくインターネット上の報道記事やまとめ記事サイト等でも拡散されていきますので、マイナスイメージが蔓延し、それが将来も残存してしまうリスクも否定できません。一度失った信用は簡単には回復できませんので、信用を回復するまでに、長期に亘って営業努力を強いられることになります。
2.従業員に生じる責任
当然のことながら、このような不適切動画の投稿を行った従業員(動画に写り込んでいる人物だけではなく、それを撮影している人物、店舗の運営責任者等)も重たい責任を負うことになります。具体的に従業員に生じる責任は以下の内容になります。
(1)労働契約上の責任
動画の撮影に加担した従業員は、辞職や懲戒解雇処分等、その会社で勤務を継続することが難しくなり、職を失います。また、動画の撮影に加担した従業員だけではなく、店舗の運営責任者等にも責任が及びます。
(2)刑事上の責任
動画で写されている行為の内容にもよりますが、動画の撮影に加担した従業員には、行為態様に応じて、名誉棄損罪(刑法第230条)、信用棄損罪(刑法第233条)や業務妨害罪(刑法第233条)、威力業務妨害罪(刑法第234条)、器物損壊罪(刑法261条)等の刑事責任を負う可能性があります。
(3)民事上の責任
会社に対して、会社が被った損害を賠償しなければならなくなる可能性があります(民法第709条等)。全国ニュースで報道されたりすると被害は深刻なものになりますので、状況次第ではありますが、賠償額が吊り上がる可能性があります。
(4)社会的な責任
それ以外に、社会的な制裁を受けます、今回の一連の不適切動画のような社会の反感を買う行為が報道された場合には、インターネットを通じて、瞬く間に個人が特定されてしまい、その情報が拡散される傾向にあります。実際に過去の事例の中には、個人の氏名や住所、学歴、顔写真、家族構成などの個人情報がインターネット上に晒されてしまい、それが何年経過しても削除されることなく、現時点でも残存している悲惨な例があります。
3.会社が講じるべき対策
自分たちの会社でこのような事件が起きないように、会社が事前に確認しておくべき事項としては以下のとおりです。
① 社内各種規程の整備内容の確認
② 就労環境の整備(私物をロッカーに預け店内に持ち込ませない、人員の配置等)
③ 社内教育の実施
④ 誓約書の取得
⑤ 有事の際の対応手順と体制の確認など
この中で、一番重視していただきたいのが、社内教育の実施です。今回の一連の騒動で報道されている企業でも社内教育は行ってきたとは思いますが、各種SNSの機能や潜在するリスクとか、どこまで従業員に自分事として、法的責任の重さや社会的責任の影響の大きさを十分に認識させ得てきたかがポイントになります。
例えば、現在も悲惨な状況に陥ったままになっている過去の複数の実例を挙げて、自分事として考えさせるような内容の研修を実施しておくことが求められます。
弁護士 奥山 倫行
