2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
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リスクマネジメント(インターネット上の誹謗中傷)
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誰しもインターネット上で自社のことを悪く書かれるのは気分の良いものではありませんし、不愉快な気分になるものです。ただ、感情的に対応を進めても良いことはありません。感情的に対応を進めることで、余計に投稿が拡散してしまい、炎上しまうことも懸念されます。大切なのは、必要な手順やポイントを確認した上で、冷静に対応を進めることだと思います。具体的に対応を進めるに際して、まずは以下の内容をご確認下さい。
1. 証拠の保全
効果的な対応を進めるに際し、まずは、インターネット掲示板で誹謗中傷が行われた事実と、その内容を示す客観的な証拠を適切に確保しておく必要があります。誹謗中傷は、掲示板の書き込み、口コミ記事、各種サイト、BLOG、SNS、検索エンジン等、様々な場所で行われますが、具体的な対応を進める段階で削除されてしまっていると効果的な対応を進めることができなくなりますので、まずは証拠を確保して下さい。
具体的には、対象とする書き込みが行われたインターネット上の画面をプリントアウトして紙で保存したり、PDF形式で保存したり、スクリーンショットを撮ったり、写真や動画として撮影しておくといった形で保存することになります。その際の注意点は、いずれの場合でもURLがしっかりと表示できる形で保存することです。
URLがしっかりと表示できていなければ、どこのサイトの書き込みかが、証拠上明らかにならないので、この点は注意が必要です。
2.個別のサイトに対する削除依頼
次に、具体的なアクションに入る前に、改めて獲得目標を明確にする必要があります。具体的には、取り敢えず当該書き込みだけを削除できれば良いことにするのか、若しくは書き込みをした相手に要求して書き込みの削除を要求したり、再発防止を約束させたり、若しくは責任追及を行うのかといった方針を明確にする必要があります。
前者の場合には、書き込みがされたサイトによっては削除依頼のためのオンラインフォームが用意されている場合があり、そこを通じて権利が侵害されている旨を説明することで削除して貰える場合があります。この削除依頼の手続が功を奏すれば、それで手続も終了になります。他方で、後者の場合には、相手が特定できるか否かによって、以下のとおり異なる対応が必要です。
(1)相手が特定できる場合
書き込みをした相手を特定できる場合には、すぐに相手に連絡をしたくなりがちですが、拙速な対応は被害を拡大する可能性があるので、注意が必要です。すなわち、少なくとも、相手は御社にとって怒り、不平、不満など、何らかの悪感情を抱いているからこそ、御社にとってマイナスになる情報を書き込んでいるわけですから、安易にアクションを進めることが逆効果になる場合があるわけです。そのため、対応を進めるに先立ち、下記の検討項目を慎重に検討した上で、最善のシナリオを考えた上で、最適な方法を選択する必要があります。
記
① 書き込みにより侵害されている権利の内容と程度
② 相手に対して刑事事件等の刑事責任を問うことができるか
③ 相手に連絡をとる際の最善の方法(電話・手紙・メール・SNS・面会等)は何か
④ 相手に連絡をとる際の最善の担当(担当者・上司・社長・弁護士等)は誰か
⑤ 相手が削除に応じなかった場合の対応(刑事告訴、民事訴訟、その他)
(2)相手を特定できない場合
書き込みをした相手を特定できない場合には、相手を特定する手続を進める必要があります。具体的には、①コンテンツプロバイダ(書き込みが行われた掲示板、SNS、ブログ等のサービスを提供している主体)やホスティングプロバイダに対して、書き込みを行った相手のIPアドレスとタイムスタンプ等の情報開示請求を行って開示を受けた情報をもとに、②インターネットサービスプロバイダに対して、書き込みを行った人物の契約者情報の開示を請求するといった流れになります。これらの手続を進めるにあたり、プロバイダの対応如何では、裁判所に発信者情報開示仮処分の申立てを行わなければならない場合も生じることがありますし、若干専門的な話にもなってきますので、一度、この種の手続に詳しい弁護士に相談した上で手続を進めることをお勧め致します。
3.まとめ
一昔前までは「インターネットに書かれたことは誰も信用しないから無視しておけば良い」と言われることもありました。しかしながら、今は社会生活を営む上でインターネットは重要なインフラの1つになっており、インターネット経由で得られた情報も「一応確からしい情報」として受け止められる機会も増えてきていると感じます。そのため、自社を不当に誹謗中傷するような情報を放置しておくことは、企業の成長にとって大きな足かせになり兼ねません。企業を着実に成長させていくためにも、自社に対するインターネット上の評価や評判を適切なものに保ち続ける姿勢と対策が求められています。
弁護士 奥山 倫行
