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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.11(労務(年次有給休暇の時季指定義務)

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

今回のテーマは↓です。

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 労務(年次有給休暇の時季指定義務)

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 労働基準法が改正され、2019年4月1日から、全ての使用者に対して、年5日の年次有給休暇の確実な取得が義務付けられる制度が施行されています。 義務に違反した場合には30万円以下の罰金が科せられますので(労働基準法第39条第7項)、今一度、以下の内容をご確認下さい。

1. 年次有給休暇 の時季指定の義務化

 年次有給休暇(以下「年休」といいます)は、働く人の心身のリフレッシュを図ることを目的として、原則として労働者が請求する時季に与えることとされています。

 しかしながら、厚生労働省の調査によると、我が国の年休の取得率は平成28年が49.4%で、平成29年も51.1%と、低調な水準で推移しており、年次有給休暇の取得促進が1つの課題とされていました。

 そのような状況を踏まえ、労働基準法が改正され、2019年4月1日から全ての企業において、年10日以上の年休が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年休の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。


2.対象者

 この制度の対象になるのは、年休が10日以上付与される労働者です。具体的には、入社後6カ月経過している正社員やフルタイムの契約社員や、アルバイトやパートタイムでも、入社後6カ月が経過しており週30時間以上勤務している等の一定の要件を満たしている労働者ということになります。対象となる労働者を図表に纏めましたのでご確認下さい。


3.使用者に課せられる義務

 対象になる労働者ごとに、使用者は、年休を付与した日(基準日)から1年以内に5日間、取得時季を指定して年休を取得させなければならないとされています。また、使用者は、時季指定にあたっては、労働者の意見を聴取しなければならないとされていますし、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるように、労働者から聴取した意見を尊重するように務めなければならないとされています。

 それ以外にも、使用者は、労働者ごとに年休管理簿を作成して、3年間保存しなければならないとされています。この年休管理簿には、基準日、年休の取得日数、年休を取得した日数を記載する必要がありますが、労働者名簿や賃金台帳の記載項目を追加する等の工夫をしながら管理して頂くのが適当かと思います。

4.具体的な対応

 職場で求められる具体的な対応としては、以下のように(1)労働者ごとに個別に年休を指定するか、(2)計画年休制度を採用して全労働者にまとめて年休を付与するといった方策が考えられます。

(1)個別に指定する方法

 まず、就業規則に「基準日から1年間の期間が終わる1か月前までに有給休暇が5日未満の労働者について会社が有給休暇を指定する」ことを規定する必要があります。その上で、労働者ごとに有給消化日数が5日以上になっているかをチェックして、個別に年休を指定していく方法があります。この方法では、労働者数が増えれば増えるほど管理の手間がかかることになりますので、チェック漏れが生じないような仕組みを考えたりしながら、漏れが無いように運用する必要があります。

(2)計画年休制度を採用する方法

 次に、計画年休制度を採用する方法があります。計画年休制度というのは、会社が労働者代表との間で労使協定により各労働者の有給休暇のうち5日を超える部分について予め日にちを決めてしまうことができる制度です(労働基準法第39条第6項)。この制度を導入することで、個別の労働者ごとに有給休暇消化の義務を果たしたかどうかを管理する手間を省くことができますし、会社の判断で、できるだけ業務に支障が少ない時期に全社一斉に有給を消化するといった対応も可能になります。ただ、この方法を採用すると、普段から年5日以上の有給休暇を取得している人も含めて労使協定で有給休暇の日を決めることになりますので、全体的にみると、個別に指定する方法よりも有給休暇の消化日数が増える結果になる場合が多いと思います。


弁護士 奥山 倫行