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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.12(契約実務(民法改正に伴う賃貸借契約書の改訂))

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

今回のテーマは↓です。

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 契約実務(民法改正に伴う賃貸借契約書の改訂)

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 2020年4月1日から改正された民法(以下では「改正法」といいます)が施行されています。この改正は120年ぶりの大改正で、社会情勢の変化に伴って変更しなければならなくなった点の改正や、現在の裁判や取引実務で通用しているルールを法律上も明確にするといった観点での改正が行われました。賃貸借契約に関する部分も多岐に亘って改正されていますが、その中から特に確認していただきたい点を中心に説明させていただきます。


1. 賃貸人の修繕義務

 賃貸人は、賃借物の使用収益に必要な修繕をする義務を負っていますが(改正法606条第1項本文)、賃借人のせいで修繕が必要になった場合であっても、賃貸人が修繕義務を負担しなければならないのかについて、明確な規定はありませんでした。

 この点に関し、改正法は賃借人の帰責事由によって修繕が必要になった場合には、賃貸人は修繕義務を負わない旨を明確にしました(改正法606条1項但書)。そのため、賃貸借契約書の修繕費に関する条文に「賃借物の修繕に要する費用については、賃借人の責めに帰すべき事由により必要となった費用は賃借人が負担するものとし、その他の費用は賃貸人が負担する」といった内容を明記しておくと良いかと思います。


2.賃借人の修繕権限

 賃借物は賃貸人の所有物ですので、本来、賃借人が賃借物を修繕する権限はありませんが、改正法では、賃借人が賃貸人に修繕が必要であることを通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないときや、急迫の事情があるときには、賃借人が修繕できることになりました(改正法607条の2)。 そのため、賃貸借契約書にも「賃借人が、賃借物に修繕を要する箇所を発見したときは、賃貸人に通知するものとし、賃貸人が当該通知を受け取ったにも関わらず、正当な理由なく修繕を実施しないとき又は急迫の事情があるときには、賃借人は自ら修繕を行うことができるものとする」といった内容を明記しておくと良いかと思います。


3.連帯保証人の極度額設定の義務化

  1. 多くの賃貸借契約書には連帯保証人についての規定があると思いますが、改正法では、連帯保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、連帯保証契約自体が無効になることになりました(改正法465条の2)。具体的には「連帯保証人は、借主が貸主に対して本契約に基づいて負担する一切の義務について、★★★★★円を限度として、借主と連帯して責任を負担する」といった形で責任の範囲が明確になるように規定する必要があります(★★★★★には極度額として具体的な金額を記載してください)。
  2. 悩ましいのは、極度額をいくらにすれば良いのかといった点です。この点について、法律に定められたルールはありませんので、賃貸人と連帯保証人との間で合意して金額を自由に設定することになります。賃貸人としては、金額が高ければ高い方が安心ということになると思いますが、逆に、あまり高くなってしまうと、連帯保証人になる人がいなくなってしまうことも予想されますので、そのあたりの均衡をとって金額を設定していくことになろうかと思います。ちなみに、日ごろ不動産トラブルを扱うことのある弁護士の立場からすると、賃料の支払が滞納した場合に不動産を明け渡して貰うまでは、1年から1年半くらいの期間を要することはよくありますので、少なくとも、その程度の期間の賃料相当額を極度額として設定しておいた方が安心できるのではないかと思います。

4.連帯保証人に対する情報提供義務の新設

 連帯保証人の候補者を保護するために、事業用の賃貸借契約(店舗やオフィスなど)については、改正法により、新たに賃借人から連帯保証人に賃借人の財産状況などを情報提供することが義務付けられました(改正法465条の10)。
 そして、賃借人が連帯保証人に対して情報提供を怠り、連帯保証人が賃借人の財産状況等を誤解して連帯保証人になることを承諾した場合で、かつ賃貸人がそれを知っていたり、又は知らないことに過失があった場合には、連帯保証人は連帯保証契約を取り消すことができるとされていますので(改正法465条の10)、注意が必要です。
 賃借人から連帯保証人への情報提供が義務付けられた項目は「賃借人の財産及び収支の状況」「賃借人が賃貸借契約以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況」「賃借人が賃貸人に保証金などの担保を提供する場合は、その旨と提供する担保の内容」になります。そのため、賃貸借契約書においてこれらの項目を記載する欄を設けて、賃借人に記載して貰った上で、連帯保証人に署名、捺印を求めることで、賃借人に連帯保証人への情報提供義務を確実に果たさせる形式で用意しておかれると良いと思います。


5.最後に

 上記以外にも、原状回復義務には通常損耗や経年変化は原状回復の対象とならないこと(改正法621条)や、敷金の定義が明確化されたりしています(改正法622条の2)。これらは、現行法に明確な規定がなかったものを明確化したものですので、賃貸借契約書を大きく変更する必要はない場合が多いと思いますが、念のため法律の規定内容とお手持ちの賃貸借契約書の内容に齟齬が無いかはご確認ください。なお、改正法の施行日である2020年4月1日以前に締結する契約については現行法が適用され、2020年4月1日以降に締結された契約については改正法が適用されることになりますので、それまでに必要な対応を進めていただければと思います。

弁護士 奥山 倫行