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農業経営アドバイザーについて

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1.農業経営アドバイザーとは

 農業経営アドバイザーは、日本政策金融公庫が実施する資格制度です。農業の特性を理解している税務会計、労務、マーケティングなどの専門家からアドバイスを受けたいという農業経営者の要請を受け、農業への総合的かつ的確なアドバイスを実践できる人材を養成するために平成17年2月に創設された制度です。農業経営者に対する経営改善支援に必要な知識等を有する人材の育成を行って農業経営の発展に寄与することを目的としたものです。令和5年11月現在、全国に約6,000人の農業経営アドバイザーがおりそれぞれの専門的知識から農業経営を支援しています。


2.農業経営アドバイザーとしての活動について

 私の農業経営アドバイザーとしての主な活動は農家における人事労務管理でのサポートが中心です。私の保有資格である弁護士・社会保険労務士・キャリアコンサルタントの専門知識を活用して、今日農家が抱える人事労務に関する課題について実践的なアドバイスを行うよう心掛けています。

 農業は一部機械化が進んでいるものの、依然として人手が必要な労働集約型産業の側面があり人材の確保定着は多くの農業経営者にとっても関心の高い事項です。そこで、農業における人事労務管理のサポートを通じて農業経営アドバイザーとしての活動を行っています。

 今日の農家の人事労務における大きな課題となっているのが、人手不足の問題です。外国人労働力の活用が検討されたこともありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により入国が思うようにできない状況が続き、その後入国制限が緩和されたましたが、為替相場が円安基調となり我が国の賃金面での魅力が低下したこともあり、当初想定した外国人労働力の活用には至っていないように思われます。
 また、国内の労働市場においても、新型コロナウイルス感染症の影響もあり他の業種から一定数の労働力の移動が見られた時期もありましたが、第5類移行後の経済の回復基調の中で、かつての業種に復帰する場合や宿泊業飲食行等の著しい人手不足による人材の確保、いわゆる2024年問題に起因する建設業や運送業の人材の囲い込み等の影響もあり、農業の人手不足の問題は解決に至っていません。

 農業における人手不足の要因は多岐にわたりますが、主要な要因について考察すると、キツイ・汚い・危険といったいわゆる3K職場とのイメージがあること、第二として農業への関心が薄く職業としてのイメージが持ちにくいこと、最後に離職率が高いことが挙げられます。

 こうした現状分析から、職場環境の整備を通じて人手不足問題の解決に向けて農業経営アドバイザーとしての活動を行っています。


3.取り組み例について 

 農業の人手不足問題への対応としては具体的に前述した要因を分析しその対応として就業環境の整備が必要不可欠であるとの考えから次のような取り組みを行っています。

(1)労働環境の整備の取り組み

 農業はこれまで家族経営が主体であり、労働者を採用して事業を行うことは小規模な範囲にとどまっていました。また、農業、畜産業は水産業等と同様に労働時間、休憩及び休日に関する規程の適用が除外されていることもあり労務管理が不十分であるケースが多いです(労働基準法41条1号参照)。

 そこでまず、経営者に対して、従業員の労働時間について把握し記録することを提案し、誰がいつどのくらいの時間働いているかを認識してもらうことにしました。


 次に、労働時間、業務内容を踏まえて賃金が適正妥当な水準にあるかを検討しました。その際には、他業種を含めた世間の賃金水準や当該農家の財務状況から賃金支払い能力等を具体的に検討します。
 そうすると、農業においては、時間外労働に対する考え方が他の業種とはやや異なるとように感じられました。例えば業務の都合で予定している時間よりも遅くなった場合や、天候の要因等で決められた時間よりも早く業務を開始する場合、他の業種では時間外労働として割増賃金が発生するとの認識がありますが、農業の経営者にはその認識が乏しいように感じます。
 そのことは、仕事が遅くなるなど所定労働時間を超過した場合でも日給や月給の場合には決められた賃金しか支払われないことを意味しています。所定労働時間を超えて労働している場合に発生する賃金については明確になっていないことが多いため、このような点について、労働条件通知書や雇用契約書で明示して賃金計算にも反映するよう助言しました。
 その結果、労働時間分について適正に賃金が支払うことになり、そこで働く人の納得感につながったように思われます。

 また、育児・介護休業法に基づく休業制度を整備することにより、育児や介護と仕事が両立しやすい職場であること、長く働き続けることができる職場であることなど働く人の職場イメージの改善につながる取り組みも行いました。農業分野では他の職種と違い休業後の職場復帰にあたりキャリアのブランクはあまり問題とはならないことから復職への障害が小さいなどの利点があるように思われます。

 さらに労働環境全般を通じて法令の順守を進め、世間でいうブラック職場からの脱却を図るよう助言をしました。

(2)職場満足度の向上への取り組み

 法律が定める最低限度の就業環境をクリアするだけでなく、働く人の満足度を高める取り組みとして、職場においてキャリアコンサルティングの実施をします。具体的には一人1時間の対面でのキャリアコンサルティングを実施して、労働条件や職場環境、人間関係のみならず生活環境や職場での希望要望等の聞き取りを行いました。
 その際には、守秘義務に十分配慮し本人の了解を得た範囲で経営者との情報共有を行うようにしました。その中では、将来に対する漠然とした不安や職場環境への希望要望等の多くの情報が得られ、それを経営者と共有することにより働く人のニーズに職場環境を近づけていくことができました。

(3)採用活動について

 採用活動も多角化することで採用可能性が向上し人材の確保に結びつくと思われます。各種就職説明会への参加やインターネットの活用を通じて就職活用している人に情報を提供することなど就職活動の多様化が必要です。また、インターンシップを通じて仕事理解を深めてもらうことも、離職率の低下に有用であると思います。


4.今後について

 今後のアドバイザーとしての活動は、自分の有する知識や経験を総動員して農家の抱える課題解決に取り組んでいこうと考えています。これまでの取り組みについて検証改善し農業の従事する人が希望の持てる職場づくりに寄与していきたいと思います。

 そのためには、農業経営者は事業家・経営者としての意識を持ってもらう必要があると考えます。また、学生を含めた農業で働くことを希望する人については農業の職場の現状を知ってもらい、そこで働くことのメリットを認識して職業選択に一つになるように助力したいと考えています。

 今後もアドバイザーとしての活動により農業における労務管理を実践し働きやすい職場環境を作り上げることにより農業が魅力ある職業となるサポートしていきたいと考えています。

弁護士・社会保険労務士 澤井 利之