1.AIの発展
近年のAI(人工知能)の発展には目覚ましいものがあります。
私は、将棋については詳しくないですが、21世紀に入ったばかりのころは、コンピュータの将棋能力はプロと比較すればまだまだレベルが低いという時代でした。おそらく、当時の将棋ソフトを強い人が使えば、ほぼ人が勝つ状況だったものと思われます。
しかし、それから20数年、コンピュータ技術の急激な発展により、今は、コンピュータがトッププロ棋士に勝つことが珍しくなくなりました。しかも、規定の思考ルーチンに固定されるのではなく、AIの発展により、コンピュータが学習を続けることにより成長するようになりました。
このAIの発展は、あらゆる分野に及び、AIが絵を書いたり、文章を作成したり、様々なものを生成する時代になっています。
2.AIと著作権
AIの発展により、知的財産分野にも多くの課題が生じています。例えば、昨年末、英国の最高裁判所が、AIが生成した発明について特許権として登録することを認めないという判決が下されました。その 理由は、英国の特許法では、発明者は自然人でなければならないというものです。
日本でも、知的財産分野においてAIについての課題が検討され続けています。
そのうち、著作権についての課題を一部紹介します。
- AIによる生成物は著作物となるか
- AIを開発したり、AIに学習させたりする際に、膨大なデータ(著作物を含む)を取りまとめて使う場合、それらのデータ利用に著作権者の許諾を必要とするか。
- AIによる生成物は、他者の著作権侵害となることがあるか。
ここでは、上記のうち 1. について説明します。
今のAI技術は様々なものを生成しています。絵を描く、図面を描く、文章を作成するなど人がこれまで仕事としてやってきたことを代わりにやってくれます。
そこで、AIが生成したものは、著作物として著作権の保護対象となるかという課題が生じます。上記の英国の特許の事例と同じような問題です。
この課題について、AIが『自律的に』生成したものは、著作物に該当しないと考えられています。
著作権法において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法第2条1項1号)であり、コンピュータが生成したものは「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではないとの理由によるものです。
他方、AIが『自律的に』生成したものではなく、人が、AIを道具として利用してその人の思想又は感情を創作的に表現したものは著作物に該当すると考えられています。
つまり、AIが『自律的に』生成したものか、人が創作的表現に関与しているかの違いによることになります。
AIが『自律的に』生成したというのは、人が全くAIに指示を与えていないのにAIが自ら絵や文章等を生成した場合や、そこまででなくとも、人の指示は非常に簡単なものにとどまり、ほぼAIが絵や文章等を生成した場合となります。
他方、人が創作的表現をする道具としてAIを用いたというためには、人の創作意図があるか、人が創作に寄与する行為を行ったかにより判断されます。
漠然としたイメージとしてはわかるのですが、実際に、AIが自律的に生成したものか、そうではなく、人の創作意図や創作への寄与があるものかを、具体的事案において判断するとなると非常に難しいものもありそうです。
3.AIと著作権の将来
以上のように、AIが『自律的に』生成したものは著作物とならず、著作権は認められません。
ただ、コンピュータ技術は、とてつもなく急速に発達しています。今後、多くの仕事をコンピュータが奪うと言われているように、美術、音楽、文芸等の作出にAIが関わる場面は急速に増えていくことが予想されます。世の中に普及している音楽、絵(画像)、小説その他多くのものの殆どをAIが作出し、人は僅かに関わるような世の中となることも考えられます。
そのような世の中となったときに、AIが『自律的に』生成したものは著作物とは一切認めないのか、それとも『自律的に』生成のハードルを変更して人の関与の度合いが少なくとも著作物として認める方向となるのか、この課題の議論はAIの発展とともに常に議論されていくことになると思います。
弁護士・弁理士 安藤 誠悟
