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健康診断について

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1.はじめに

 今回は健康診断について、弁護士・社会保険労務士の澤井利之がお伝えいたします。

 それぞれの職場では毎年健康診断を実施していることと思います。この健康診断の実施については労働安全衛生法に根拠があることをご存じでしょうか。どのような場合にどういった健康診断を実施するかについては法律で決められています。

 また、2024年4月より健康診断について新しい制度も始まりましたので最新の情報も含めお伝えいたします。


2.一般健康診断

 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(心理的な負荷の程度を把握するための検査を除く)を行わなければならない(安衛法66条1項)。このように法律で健康診断の実施とその内容について規定されています。

 その中身についてみていきましょう。


(1)雇入れ時の健康診断

 事業者は常時使用する労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない(安全衛生法施行規則43条)。

 ① 既往歴及び業務歴の調査
 ② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
 ③ 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
 ④ 胸部エックス線検査
 ⑤ 血圧の測定
 ⑥ 貧血検査
 ⑦ 肝機能検査
 ⑧ 血中脂質検査
 ⑨ 血糖検査
 ⑩ 尿検査
 ⑪ 心電図検査

 これらの項目について、医師による健康診断を受けた後、3月を経過しないものを雇い入れる場合において、その者が当該健康診断結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目については省略することができることとされています。

 したがって、入社時に3月以内の健康診断結果表を提出された場合には雇入れ時の健康診断を省略できることになります。

(2)定期健康診断

 事業者は常時使用する労働者(特定業務従事者を除く)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない(安全衛生法施行規則44条)。

 ① 既往歴及び業務歴の調査
 ② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
 ③ 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
 ④ 胸部エックス線検査
 ⑤ 血圧の測定
 ⑥ 貧血検査
 ⑦ 肝機能検査
 ⑧ 血中脂質検査
 ⑨ 血糖検査
 ⑩ 尿検査
 ⑪ 心電図検査 

 また次の項目についてはそれぞれ次に掲げる者について医師が必要ない と認めるときは省略することができます。

項目省略することができる者
身長の検査20歳以上の者
腹囲の検査① 40歳未満の者(35歳の者を除く)
② 妊娠中の女性その他の者であって、その腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断されたもの 等
胸部エックス線検査40歳未満の者(20歳、25歳、30歳及び35歳の者を除く)で、次のいずれにも該当しないもの
① 感染症法で結核に係る定期の健康診断の対象とされている学校、医療機関、社会福祉施設等の労働者
② じん肺法で3年に1回のじん肺健康診断の対象とされている労働者
喀痰検査① 胸部エックス線検査によって病変の発見されない者
② 胸部エックス線検査によって結核発病のおそれがないと診断された者
③ 胸部エックス線検査を省略することができる者
貧血検査
肝機能検査
血中脂質検査
血糖検査
心電図検査
40歳未満の者(35歳の者を除く)



(3)特定業務従事者の定期健康診断

 事業者は特定業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際及び6月以内ごとに1回、定期に、定期健康診断の項目について医師による健康診断を行わなければならない(安衛則45条)。

 ① 深夜業を含む業務
 ② 坑内における業務
 ③ 著しく暑熱または寒冷な場所における業務
 ④ 異常気圧下における業務
 ⑤ 重量物の取扱い等重激な業務
 ⑥ 強烈な騒音を発する場所における業務等

 また次の項目についてはそれぞれ次に掲げる者について医師が必要ないと認めるときは省略することができます。

項目省略することができる者
身長の検査20歳以上の者
腹囲の検査① 40歳未満の者(35歳の者を除く)
② 妊娠中の女性その他の者であって、その腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断されたもの 等
喀痰検査① 胸部エックス線検査によって病変の発見されない者
② 胸部エックス線検査によって結核発病のおそれがないと診断された者
貧血検査
肝機能検査
血中脂質検査
血糖検査
心電図検査
40歳未満の者(35歳の者を除く)




(4)海外派遣労働者の健康診断

 事業者は労働者を本邦外に地域に6月以上派遣しようとするときは、あらかじめ、当該労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない(安衛則45条の2)。

(5)給食従業員の健康診断

 事業者は、事業に付属する食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者に対し、その雇入れの際又は当該教務に配置換えの際、検便による健康診断を行わなければならない。

3.特殊健康診断

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行わなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で現に使用しているものについても、同様とする。事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行わなければならない(安衛法66条2項、3項)。

 特殊健康診断の例としては以下のものがあります。

有害業務実施時期
高圧室内業務及び潜水業務
放射線業務
6月以内ごとに1回
特定化学物質のうち一定のものを製造し、又は取り扱う業務、製造禁止物質(石綿等を除く)を試験研究のため製造し、又は使用する業務6月以内ごとに1回
(一定の業務に係る一定の検査については、1年以内ごとに1回)
鉛業務6月以内ごとに1回
(一定の業務に従事する者については、1年以内ごとに1回)
四アルキル鉛等業務
有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務
石綿などの取り扱い又は試験研究のための製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務
6月以内ごとに1回



4.リスクアセスメント対象物健康診診断

 2024年4月よりリスクアセスメント対象物について、ばく露による健康障害リスクが許容できないと評価された労働者に健康診断を実施しなければならなくなりました。有害物を取り扱う業務に従事する労働者についてはこれまで説明したように健康診断を行う義務がありましたが、技術の進展に伴い新たな化学物質が登場していますが、それらすべてを法律や規則で規制するのは困難な状況となっています。そこで、健康被害が生じる恐れが場合については、各事業者の判断でリスクに応じて医師等による判断により健康診断を実施することが義務付けられました。
 リスクアセスメント対象物健康診断は、事業者による自律的な化学物質管理の一環として化学物質ばく露による健康障害発生リスクが高いと判断された労働者に対し、医師等が必要とに止める事項について、健康障害発生リスクの程度および有害性の種類に応じた頻度で実施するものとされています。

5.まとめ

 健康診断については、毎年実施していると思いますが、労働者の健康は、企業の成長・発展に寄与するとの考えのもと、適切に実施していただきたいと思います。

弁護士・社会保険労務士 澤井 利之