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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.15(労務(社員の肖像等))

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

今回のテーマは↓です。

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 労務(社員の肖像等)

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 社員の許諾を得ることなく社員の写っている写真を使用すると、社員の肖像権を侵害する可能性があります。

 そのため、社員の肖像を使用する場合には、写真に写っている社員全員から許諾を得ておく必要があります。

 また、既に退社した社員については、会社から連絡した上で許諾を得るか、又は許諾が得られない場合にはホームページに掲載されている写真自体の差し替えを検討する必要があります。いずれにしても、この機会に、ホームページや会社案内、その他の販促物で社員の肖像権を侵害していないかを確認して、問題がありそうな場合には、本稿の内容を参考にして対応を進めてください。


1. 肖像権

 人は誰しも、他人から無断で写真や映像を撮られたり無断で公表されたり利用されたりしない権利を有しています。このような権利を肖像権といいます。肖像権は、法律で明確に規定されているわけではありませんが、判例上、法律上保護されるべき人格的利益として認められています(最高裁平成17年11月10日付判決等)。特に、デジタルデバイスが普及した現在において、個人の肖像の利用については、より慎重に考える必要があります。例えば、一旦インターネット上で肖像を公開してしまうと、TwitterやFacebook等のSNSで簡単に拡散されて、悪用される可能性も高くなるので、そのような事態も念頭において検討すべき事柄です。


2.どのような場合に肖像権を侵害することになるのか?

 どのような場合に違法な肖像権侵害と扱われるのかについても法律で明確に規定されているわけではありませんが、判例上、①被撮影者の社会的地位、②撮影された被撮影者の活動内容、③撮影の場所、④撮影の目的、⑤撮影の態様、⑥撮影の必要性等を考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかといった基準で肖像権侵害の有無を判断するといった指針が示されています。

 そして、肖像権を侵害してしまった場合には、侵害された相手から損害賠償を請求されたり(民法第709条)、差止請求を受けたりすることになります。それ以外にも、会社が社員や第三者の肖像権を侵害してしまった場合には、コンプライアンス違反として、社会から糾弾されるリスクもでてきますので、注意が必要です。

3.肖像権侵害にならないためには?

 今回の相談内容に即して、肖像権侵害を問われないための方法を紹介させていただきます。社員が写り込んでいる写真を使用していると何でもかんでも肖像権侵害になるのかというと、そうではありません。肖像権が侵害されないようにするための方法として、以下の方法があります。

(1)掲載する画像を工夫する方法

 肖像権が侵害されていると解されるためには被写体の人物像が特定されなければなりません。そのため、肖像権侵害にならないようにするために、画像の解像度を低くして、被写体の容姿や容貌をぼかすという方法があります。

 また、風景の一部として人物像が写っているけど、小さくて人物としては特定できないようにしたり、後ろ姿が中心で人物として特定できないようにしたりして、肖像権侵害にならないようにする方法もあります。

(2)写り込んでいる社員から許諾を得る方法

 被写体の人物像が特定されていても、その社員本人から許諾を得ることができれば、肖像権侵害の主張をされることはありません。そのため、肖像の利用について被写体となっている社員から許諾を得る方法が考えられます。
 ただ、この場合、社員からの許諾の取り方には注意が必要です。すなわち、多くの場合、社員は上司からの依頼は断りづらい立場にありますので、上司からの依頼だけではなく、社員の同僚や部下などを通じて本音を確認することが大切です。
 また、実務上は、許諾の範囲や期間を巡ってトラブルに発展することもありますので、許諾の範囲(コーポレイトサイトだけの使用か、商品やサービスを紹介するランディングページ等でも使用するのか、Twitter、Instagram、Facebook等のSNSでも使用するのか、それ以外に会社案内等の紙媒体等でも使用するのか)や、許諾の期間(社員が在籍中の使用に限られるのか、社員の退職後も使用を認めるのか)を定める必要があります。
 さらに、もし万全を期すのであれば、会社から社員に対して何らかの手当てや一定の肖像使用料などを支払うことによって、社員の許諾が真意に基づく有効なものであるという説明がしやすくなりますので、このような方法もご検討ください。


4.まとめ

 ホームページや印刷媒体に社員の肖像を使用している会社も多いかと思います。社内の雰囲気を伝えてお客様に安心して貰ったり、会社や社員に対して親近感をもって貰ったりするために行われることだと思いますが、本当に社員の肖像を利用する必要があるか否かについては、今一度慎重に考えていただく必要があると思います。例えば、会社に対して何らかの悪意をもった第三者によって、ホームページに掲載されている社員の肖像が悪用されてしまう可能性も否定できませんし、万が一、会社が何らかの不祥事を起こした場合には、肖像が掲載されている社員の人生にも悪影響を及ぼす可能性もあります。
 このように、社員の肖像を公開することは、社員をリスクに晒してしまうことに繋がり兼ねませんので、今一度、社員の肖像を利用する必要が本当にあるのかを確認し、どうしても社員の肖像を使用する必要がある場合には、今後会社や社員に生じ得るリスクに対する対策を十分に検討した上で必要な対応を進めてください。

弁護士 奥山 倫行