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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.16(労務(社員紹介制度))

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

今回のテーマは↓です。

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 労務(社員紹介制度)

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 労働生産年齢人口の減少により、多くの企業で人材採用が大きな経営課題になっています。そのような中で、期待される方策の1つが社員紹介制度です。しかし、安易に制度を導入して運用を開始してしまうと、法律違反になる可能性があるので注意が必要です。


1.社員紹介制度のメリット

 まず、社員に優秀な友人や親せき等を紹介して貰い、採用に至った場合に当該社員に対して金銭報酬を支払う制度(以下「社員紹介制度」といいます)のメリットは、以下のとおりです。

(1)ミスマッチの防止

 紹介という仕組みを考えたときに、紹介する側も、紹介される側も、相当な責任のもとで行うのが通常です。殆どの場合、紹介する側は「この人を紹介して本当に問題ないかな。会社に馴染んで活躍できるかな。下手に紹介してしまうと自分に対する評価も下がってしまうかもしれないけど、大丈夫かな。」等といったことを慎重に熟慮した上で人選をすると思いますし、紹介される側も「自分がちゃんと頑張らないと紹介してくれた人に迷惑になるな。紹介してくれた人の顔を潰すわけにはいかないな。本当に紹介して貰って大丈夫かな。」等と慎重に熟慮した上で入社の可否を判断するものです。そのため、採用後のミスマッチが起きる確率が低くなることが期待できますので、この点は会社にとっても大きなメリットです。

(2)採用コストの削減

 また、最近は人材エージェントなどの採用専門会社に依頼して優秀な人材を確保しているといった話もよく耳にします。人材エージェントはプロフェッショナルとして、会社が希望する優秀な人材を紹介してくれる可能性は高いと思いますが、紹介した人材の年収の30%~40%(注:相場と言われる金額で実情は様々で一律の基準はありません)を人材エージェントに支払わなければならないような場合も多いため、相応の採用コストが発生します。他方で、社員紹介制度では、制度設計次第ではありますが、一般的にはこれより低額な報酬を設定して制度設計が行われますので、採用コストの削減につながるといったメリットもあります。


2.社員紹介制度導入の注意点

 次に、社員紹介制度を導入する際の注意点を説明させて頂きます。採用募集に関するルールは職業安定法という法律で規制されていますので、確認が必要です。
 すなわち、職業安定法第40条は、「労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。」と規定しています。これは中間搾取を防止するための規定で、原則、労働者の募集を行う者に対して報酬を支払うことは禁止されていて、例外的に、自社の社員が募集を行い、その社員に対して、賃金、給料その他これに準ずるかたちで報酬を支払うことは許されるといったのが法律の定めるルールになります。

 そのため、社員紹介制度を導入する際には、この条文に違反しないような内容で、制度設計を進める必要があります。具体的なポイントは以下のとおりですので、ご確認ください。

(1)就業規則、賃金規程及び雇用契約書に明記すること

 紹介者に支給される金銭が、職業安定法第40条が定める「賃金、給料その他これらに準ずるもの」に該当するものであることを明確にするために、就業規則、賃金規程及び雇用契約書に規定を設け、金銭の性質を明確にする必要があります。

(2)支給要件や支給方法に関する規定を明確にすること

 例えば、入社した社員が入社して3カ月辞めなかった場合に手当として支給されるとか、1年間継続して勤務した場合にボーナス査定に反映させるだとか、様々な方法があり得るところですが、いずれにしてもそのような支給要件や支給方法についてはルールを具体的に定めて社内規程等に明記する必要があります。

(3)支給される金額が相当であること

 支給金額をいくらに設定するかは悩ましい問題です。この点に関して法律上明確な規定はありません。中にはエンジニアなどの技術者の採用に関して50万円を超えるような金額を支給している例も耳にしたことがありますが、あまり多額の金銭を支給すると職業安定法第40条が定める「賃金、給料その他これらに準ずるもの」に該当しないと判断される可能性もあり得ますし、多く散見するのは3万円以内から10万円程度の金額かと思いますので、それらを参考にして相当な金額を設定するようにしてください。

(4)物での支給は避けること

 職業安定法第40条の「賃金、給料その他これらに準ずるもの」であることを明確にするためにも、物での支給は避けてください。たまに、商品券を渡したいとか、会社の商品を渡したいといった相談を受けることがありますが、労働基準法第24条第1項は「賃金は、通貨で・・・(中略)・・・支払わなければならない」と規定していますので、物で支給すると「賃金、給料その他これらに準ずるもの」以外の報酬を与えたと解される可能性がありリスクがあります。

3.まとめ

 社員紹介制度は魅力的な制度ですが、他方で、「紹介して貰って入社したけど紹介してくれた人がすぐ辞めてしまった。」とか「入社した社員の能力が期待したよりも低かったため社内における紹介者の立場が悪くなってしまった。」といった話も耳にすることがあります。会社側でも職場環境が悪くならないようにするために、採用面接の際に慎重に行うとか、採用した場合の配置に配慮するとか、受入側の運用上の工夫が必要なところですので、本稿の内容を参考にして頂きつつ、適切な形で導入・運用を進めてください。

弁護士 奥山 倫行