1.はじめに
4月18日、東京地方裁判所は、漫画等のコンテンツを無断で掲載していた海賊版サイト「漫画村」の元運営者に対し約17億円の支払いを命ずる判決を下しました。この判決に対し、元運営者は、「財産はない」「払うつもりはない」などと開き直った主張をしているということが判決の内容と併せて大きく報道されました。
1990年代にコンピュータが家庭にも急速に普及し始め、21世紀に入ってインターネットが至るところで利用できるようになり、また、伝送速度も高速化しました。さらには、スマートフォンの登場・発展により、各人がネットワークを介して情報交換をする頻度が格段に高まりました。
このようなインターネット時代の進展に伴い、インターネット上での知的財産権(特に著作権)の侵害が目立つようになりました。今回から、インターネット時代だからこそ生じた著作権侵害事案をいくつか紹介します。
2.ファイル交換(共有)
2000年代前半ころから、一部パソコンユーザーの間でファイル交換(共有)ソフトやサービスが流行しました。よく名前を聞いたものはファイルローグ、WinMX、Winnyというソフト・サービスです。ソフトによってシステムは異なりますが、いずれも、見ず知らずの他者からデータを受領したり、他者にデータを提供したりするソフト・サービスであることには変わりありません。
これらのソフトを、音楽、画像、コンピューターソフトなどの様々なコンテンツを融通し合うために利用されました。
そして、これらのコンテンツを無断で交換(共有)し合うことは、コンテンツホルダーにとって見過ごせるものではなく、民事、刑事の双方で事件となりました。
① ファイルローグ事件(東京高裁平成17年3月31日など)
ファイルローグというファイル交換サービスを運営していた会社に対して、日本音楽著作権協会やレコード会社が、著作権、著作隣接権侵害による損害賠償請求を行った複数の訴訟がありました。
争点は色々ありましたが、ファイルローグは、様々なデータを交換できるソフトであり、それを著作権侵害の態様で音楽データなどを交換するか否かは各ユーザーの判断であるか、それとも、サービスを運営する会社に責任があるかというのが主たる争点でした。
裁判所は、運営会社の行為、管理・支配、利益などの様々な点を総合的に判断して、運営会社が著作権・著作隣接権侵害の主体であり、賠償責任を負うと結論付けました。
② Winny事件(最高裁平成23年12月19日)
こちらは、ファイル共有ソフトWinnyを開発した者について、著作権侵害行為への幇助であるとして逮捕起訴された刑事事件です。
被告人は、Winnyの開発者にすぎず、Winnyをどのように利用するかは各ユーザー次第です。なお、ファイルローグと異なり、Winnyはファイル共有のためにサービスを運営する会社は必要ないシステムとなっているため、上記①のような運営会社は存在しませんでした。
第一審は、被告人がWinnyソフトを作成配布した行為について、著作権侵害に広く利用されることを認識していたとして、幇助する故意があったとして罰金の有罪判決を言い渡しました。
しかし、控訴審は、悪用される可能性を認識しているだけでは幇助にあたらないとして無罪を言い渡し、最高裁も上告を棄却し無罪が確定しました。
なお、Winny事件を題材にした映画が昨年公開されました。この事件は映画化されるほどの社会的インパクトのあった事件といえるでしょう。
3.終わりに
ファイル交換(共有)ソフトについては、著作権者に無断で音楽データなどを他者に提供したユーザーが逮捕される等の事案もあります。しかしながら、各ユーザーを取り締まったり、各ユーザーに損害賠償請求等をしても、違法行為をするものは後を絶たず、もぐらたたきのようにキリがありません。しかも、その場合、1件1件は大きく報道されることもなく、不正利用者への警告的意味合いも大きくありません。
上記の2つの事件は、運営会社や開発者に責任を問うことで、抜本的な解決を図ったり、強い警告的意味合いを持たせようとしたりした意図もあったのではないかと思われます。
弁護士・弁理士 安藤 誠悟
