1.はじめに
SNSや雑誌などで「古民家」という言葉を目にすることもあるのではないでしょうか。 古民家の定義については諸説あるようですが、一般社団法人全国古民家再生協会は、古民家を「昭和25年の建築基準法の制定時に既に建てられていた『伝統的建築物の住宅』すなわち伝統構法」と定義しています。
近年では、平成29年6月に成立した住宅宿泊事業法により、民泊が解禁されたことに伴い、古民家を利用して民泊を営む方も出てきています(下図参照)。また、古民家を改装してカフェ等の飲食店を営む様子もよく目にします。
今回のコラムでは、このように古民家を利用して事業を営むときの留意点について解説したいと思います。
【民泊利用している物件の種別の割合】

2.「既存不適格建築物」とは?
(1)違法な違反建築物と既存不適格建築物の違い
建築基準法の規定等に違反する建築物(いわゆる「違反建築物」)に対しては、通常、建築物の工事の施工停止や使用禁止等の取締りが行われることになります(建築基準法9条)。
一方で、建築当時の法令に照らすと適法であった建築物が、その後の建築基準法の改正や都市計画法の変更により、改正後の法令や変更後の都市計画に適合しないこととなった場合、それらの建築物を「既存不適格建築物」と呼びます。
既存不適格建築物に改正後の建築基準法や変更後の都市計画の新しい規定をそのまま適用してしまうと、建築当初は適法であったものがその後の事情により違法となり不合理であるため、原則として、新しい規定を適用しないものとされています(同法3条2項)。
古民家の多くも「既存不適格建築物」として、建築基準法等の新しい規定の適用を免れている実状があると思われます。
(2)既存不適格建築物の例外
建築基準法等の改正は、地震被害の教訓や建築技術の発達を受けて個々の建築物の水準を高めるという観点や、それぞれの時代における社会経済状況にマッチしたまちづくりという観点から行われています。
「既存不適格建築物」を広く認めることは、これらの観点からは好ましいものではない面もあるため、一定の条件を満たす建築物に対しては、改正後の新しい規定をそのまま適用するものとされています(建築基準法3条3項)。
また、既存不適格建築物の損傷、腐敗その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険であったり、著しく衛生上有害である場合や、既存不適格建築物の敷地や構造が公益上著しく支障がある場合には、建築物の除却や移転、修繕等を命じることができるという例外もあります(同法10条及び11条)
3.「既存不適格建物」をリフォームする場合の注意点
(1)現行の建築基準法が適用される可能性
上記のとおり、一定の例外はあるものの、既存不適格建築物は、現行の建築基準法に適合していなくても、原則として違反建築物とは扱われません。
しかし、既存不適格建築物であっても、建築基準法等の改正後に「増築」、「改築」、「大規模の修繕・模様替」を行う場合には、現行の建築基準法が適用される可能性があります(建築基準法3条3項3号)。
古民家をリフォームして民泊や飲食店を営む場合にも、このように現行の建築基準法が適用される可能性がありますので注意してください。
なお、増築等を行う場合であっても、増改築部分の面積が50㎡を超えない場合には防火壁関係の規定が適用されないなど(同法26条、建築基準法施行令137条の3)、一定の条件を満たす範囲では、現行の建築基準法を適用しないという緩和措置も設けられています。このような緩和措置については、近時、緩和を拡充するための法改正も行われていますので、判断に迷う場合には当事務所までご相談ください。
(2)建物の安全性(耐震性)の確保
古民家を利用して民泊や飲食店を営む場合、多くの方が建物を利用することになりますので、これらの利用者の生命、身体や財産を危険にさらすことがないように建物としての基本的な安全を確保することにも注意が必要です。
最新の調査結果によると、甚大な建物倒壊被害をもたらした令和6年能登半島地震では、2000年に強化された耐震基準以降に建築された建物ではほとんど倒壊被害が見られない一方で、1981年に制定された旧耐震基準以前に建築された古い建物では倒壊被害が多く見られたという発表もあります。
万が一、大きな地震が発生した際に、建物利用者の生命等の安全が守られるよう、古民家を利用するに当たっては、あらかじめ耐震性の診断や必要に応じた補強を行うこともご検討いただきたいと思います。
4.まとめ
今回のコラムでは、古民家を利用する場合にご留意いただきたい点についてご紹介いたしました。古民家を民泊や飲食店等で利用する場合には、本コラムでご紹介した建築基準法のルールの他にも、自治体が定める条例や消防法令等、様々な関連法令との関係も検討する必要があります。古民家を利用してビジネスを始めるに当たり、何かお困りごとがありましたら、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
最後に、以前私が訪れたことのある、広島県にある古民家を利用したカフェの写真を紹介させていただきます。

弁護士 三本竹 寛
