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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.18(労務(固定残業代))

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

今回のテーマは↓です。

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 労務(固定残業代)

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 固定残業代は、誤解されている場合が多い制度です。固定残業代の制度が有効とされるためには、いくつかの大切なポイントがありますので、本稿で紹介させて頂く内容を参考にして自社の制度を確認していただき、適切な導入と運用を行うように努めてください。


1.固定残業代とは?

 固定残業代は、企業が予め一定時間の残業を想定して、月給に残業代を固定で記載し、残業代を計算しなくても、固定した残業代を支払うという制度です。例えば、「営業手当には月間20時間分の残業代を含む」とか、「基本給は18万円、残業手当5万円・・・。残業代は残業手当に含まれている」等の形で設定される例が多いと思います。導入される理由は様々ですが、残業代の発生を防いだり、残業代を計算する事務負担を軽減したり、予算を立てやすくするといった目的で導入されることが多いのではないでしょうか。


2.固定残業代についてよくある誤解

 しかしながら、固定残業代が適切に運用されていない例も多く見られます。例えば、私自身も相談者から「固定残業代の制度を採用しているので、その月に何時間働いても、残業代は固定残業代として支払っている分だけで良いですよね?」とか、「固定残業代の制度を採用しているので、労働時間の管理や残業代の計算はしなくても良いですよね?」等の質問を受けることがありますが、いずれも誤解です。

 固定残業代は「固定残業代を支払っておけば、いくらでも従業員に残業をさせても大丈夫」という制度ではありません。固定残業代でカバーされる分を超えた残業が発生した場合には、会社は従業員に対して残業代を支払わなければなりませんし、当然のことながら、その前提として、労働時間の管理や計算をすることが必要になります。

 例えば、毎月の固定残業代を5万円と定めている会社があったとします。その会社の従業員のその月の残業代が5万円分に満たなかった場合でも、会社は従業員に対して固定残業代として5万円を支払わなければなりません。他方で、従業員のその月の残業時間が5万円分を超えた場合には、1円単位で超えた分を支払わなければならない、そのような制度です。


3.固定残業代のチェックポイント

 固定残業代の制度を適切に運用するためのチェックポイントは以下のとおりです。以下の各ポイントが不十分だと、万が一、従業員から残業代の請求を受けた場合に、そもそも有効な固定残業代の制度が導入されていなかったと判断されて、最初の1分から全ての残業代を支払わなければならなくなることもあり得ます。

(1)労働時間を把握すること

 固定残業代の制度を正しく運用するためには、労働時間を適切に把握することが必要になります。タイムカードを利用する場合が多いかと思いますが、最近は従業員の出退勤を管理するアプリケーションソフトで労働時間を把握し、管理している会社も増えてきています。それぞれの会社にあった形で動労時間の適切な把握に努めてください。

(2)雇用契約書等に明確に規定すること

 求人票、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、賃金規程等(以下「雇用契約書等」といいます)に固定残業代の制度について明確に記載する必要があります。例えば、雇用契約書等に何の規定も無かったり、規定されていても割増賃金の額が不明確だったりする場合には、「基本給の中に割増賃金が含まれている」と主張しても認められませんので、明確に規定するように努めてください。具体的な注意点は以下のとおりです。

 ① 時間を明示すること

 雇用契約書等に「月給○○円(固定残業代として○○円を含む)」と記載されていることがあります。しかし、これだと何時間分の割増賃金が含まれているのかが明確ではありませんので「固定残業代○○円(○○時間分)」「月給○○円(○○時間分の固定残業代○○円を含む)」として、固定残業代が何時間分の残業時間を含むのか、時間を明記してください。

 ② 金額を明示すること

 雇用契約書等に「基本給○○円(固定残業代を含む)」と記載されていることがあります。しかし、これだと固定残業代の金額がいくらなのかが明確ではありませんので、「固定残業代○○円(○○時間分)」「月給○○円(○○時間分の固定残業代○○円を含む)」として、固定残業代の金額を明記してください。

 ③ 他の賃金と区別して記載すること

 雇用契約書等に「職務手当の一部に固定残業代を含む」といった形で固定残業代と他の賃金の区別が明確にされていないことがあります。しかし、これだと職務手当がいくらで、固定残業代がいくらなのかが明確ではありませんので、固定残業代のみを独立させて記載してください。

 ④ 雇用契約書等に差額が生じた場合の取扱を明示すること

 固定残業代の制度が正しく運用されるためには、時間外労働の割増賃金の額が、固定残業代の額を上回った場合には差額を支給する必要がありますので、その旨を雇用契約書等に明記して頂いた方が、会社にとっても、従業員にとっても安心だと思います。

(3)最低賃金を下回っていないこと

 金額と時間の設定については、最低賃金を下回らないように事前に残業代として計算をしておかなければなりませんので、制度設計を行う際には念のため確認してください。 

4.まとめ

 固定残業代は、本来は支払わなくてはならない残業代を支払わないで済ますことができる制度ではありません。そのため、そもそも、この点に誤解がある場合には、固定残業代の制度を導入するか否かを改めて検討し直して頂く必要があるかと思います。また、固定残業代の制度を導入したり、継続したりする場合でも、間違った状態のままで運用していると、会社としては固定残業代を支払ってきたと認識していても、有効な固定残業代の支払とは認められない場合があるので、注意が必要です。この機会に、本稿の内容を参考にしていただき、固定残業代として適切な運用ができているかを、一度、確認して頂ければ幸いです。

弁護士 奥山 倫行