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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.19(悪質商法(無料求人広告を巡るトラブル))

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

 今回のテーマは↓です。

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悪質商法(無料求人広告を巡るトラブル)

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 無料求人広告を巡るトラブルの相談が絶えません。

 申込者の方でも、申込書を十分に確認しなかった落ち度を自覚していたり、請求されている金額が決して支払えないような金額ではなかったりするからだと思いますが、業者からの請求に安易に応じてしまおうとされる方も多いと感じています。

 しかし、安易に支払ってしまうと、詐欺に引っ掛かりやすい事業者であるとの情報が流出してしまい、また別の詐欺業者に狙われることも懸念されますので、悪質と思われる業者に対しては、毅然とした態度で支払いを拒絶することを検討してください。


1.相談が増えている無料求人広告詐欺の手口

 時代の流れに応じて、企業を被害者とする様々な詐欺が生まれます。少し前までは、コピー機の導入を巡る詐欺や、ビジネスメール詐欺の相談がありましたが、ここ数年は無料求人広告詐欺に関する相談が絶えません。

 特に中小企業では、有料で求人広告を出しても、十分な応募を確保することができない状況があるため、詐欺を行う側(以下「詐欺業者」といいます。)からすれば、「効果的な求人を無料で行える」と勧誘することで騙しやすい相手と考えているのだと思います。

 詐欺業者や広告媒体は様々なのですが、共通点があります。具体的には、①突然飛び込みの電話やFAXやメールで勧誘されること、②「キャンペーンで今だけ無料」とか「3週間だけ無料」等、「無料」であることが強調されること、③申込書には細かい文字でいろいろと条項が書いていますが業者の方から十分な説明がされないこと、④一応広告らしきものは掲載されるものの応募がないこと、⑤「無料の期間が終了したので有料の契約に切り替わった」と告げられ支払うこともできなくない程度の広告料が請求されること、⑥支払いを拒絶してもしつこく請求されたり訴訟を提起されたりすることといった点ですので、心当たりがある場合には、早々に対応を講じることが必要です。



2.詐欺業者に騙されたかもしれないと感じたら?

 詐欺業者に騙されたかもしれない感じた場合には、以下の点に注意して対応してください。

(1)お金を支払わないこと

請求が来ても、すぐにお金を支払わないでください。詐欺業者もしつこく連絡してきますし、日常業務以外に時間をとられることを嫌がったりして、「取り敢えず、面倒だから支払ってしまって、後で弁護士に相談して取り戻せれば取り戻そう」と考える方もいると思いますが、一度支払ってしまったお金を後から取り戻すのは困難です。

 また、詐欺業者の間で、情報が共有されている場合も予想されますので、支払いをして解決したように感じても、今度は別の詐欺業者に別の手口で狙われることも懸念されます。そのため、「有料契約に切り替わるなんて話は聞いていないし、契約した覚えもないので支払わない」等と告げて、毅然とした態度で支払いを拒絶してください。

(2)証拠の確保を行うこと

 次に、関係する証拠を集めてください。詐欺業者が請求を諦めなかった場合には、警察や弁護士に相談して対応することを検討せざるを得ません。そして、警察や弁護士からは必ず証拠の提出が求められます。具体的には、①詐欺業者から届いた勧誘の書類、②詐欺業者に送付した申込書、③詐欺業者の運営する求人サイトのWEBページに関する書類(特に実際に掲載されている広告の内容や態様)、④詐欺業者から届いた請求書、⑤詐欺業者から届いた催告文、⑥詐欺業者の担当者との電話での会話を録音したデータ等を集めておかれると良いと思います。

(3)警察に相談すること

 証拠の確保ができたら、それらを持参して、警察に相談してください。警察に相談しても警察からは「民事不介入」と言われて、取り合ってくれないことも想定できますが、他にも同様の被害が多数寄せられている場合には対応を進めてくれることもありますし、今後の詐欺業者に対する対応を進める際に警察に相談したという記録を残しておくことで後に有利な材料として使える場合もありますので、一度、相談しておくことをお勧めしています。

(4)支払拒絶の書面を送っておくこと

詐欺業者に対して支払意思がないことを毅然とした態度で伝えることで、将来の訴訟コストや勝算を考えて詐欺業者側が諦める可能性もありますし、証拠資料として残しておく必要があります。そのため「請求されているけど契約した覚えはないので支払いには応じられない」といった内容を書面で送付してください。送付方法に決まりはありませんが、FAXであれば送信記録も保存しておいたり、郵便の場合は内容証明郵便で送付したりして、記録に残すことを心掛けてください。


3.それでも詐欺業者が請求をやめない場合

 詐欺業者が「申込書に記載があるし、契約が有効だ」と主張して請求を続ける場合には、弁護士に相談することをご検討ください。詐欺業者の主張に対しては、①契約の不成立、②詐欺(民法第96条)、③錯誤(民法第95条)、④公序良俗違反(民法90条)、⑤債務不履行による解除や損害賠償請求等(民法第415条等)の法律論を駆使して対抗しなければなりませんが、どのような主張が効果的かは、実際の申込書の記載内容や詐欺業者との間のやりとりの内容等を踏まえて個別に判断しなければなりませんし、今後、詐欺業者から訴訟を提起されることも想定されますので、それに対応できる体制を整える意味合いもあるからです。

弁護士 奥山 倫行