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【事業承継6】デューディリジェンスって何するの?

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1.はじめに
 
 前回のコラムでは、事業承継における情報管理の重要性について説明させていただきました。
 今回のコラムでは、M&Aの実行に向けた「DD(デューディリジェンス)」という手続について説明させていただきます。


2.「DD(デューディリジェンス)」とは何か

 「DD(デューディリジェンス)」とは、「Due(適正な)」と「Diligence(努力)」を組み合わせてつくられた造語であり、M&Aの対象となる企業を調査するプロセスのことを指します。
 例えば、買い手が売り手との間でM&Aの交渉を進め、「価格等の条件をどうするか」となったとします。しかし、買い手は、これまで対象企業の経営には関与していないため、当然ながら、対象企業の詳しい内実はまったく分からないという場合がほとんどだと思います。
 そのような状況では、どのような条件でM&Aの契約を締結すべきかの判断が困難であることは言うまでもありません。そのため、対象企業の事業や経営状況を正確に把握するために、デューディリジェンスを実施するのです。
 そして、デューディリジェンスによって対象企業の調査をしたうえで、M&Aの実行の可否や条件面等の詳細を決定する必要があるのです。


3.「DD(デューディリジェンス)」の必要性
 
 デューディリジェンスは、弁護士や会計士等の専門家に依頼することが多いため、一定程度の費用がかかります。
 M&Aの相談を受けているときに、「それだけの費用をかけてデューディリジェンスを実施する必要はあるのか」という質問を受けることは少なくありません。しかし、M&Aを適切に実行するためには、デューディリジェンスは不可欠です。
 例えば、対象企業が建設業を営んでいるとして、同社が必要な人員を配置していなければ、法律上は建設業の許可の取消処分を受ける可能性があります。
 買い手と売り手が対象企業のM&Aについて合意し、実行された後にそのような事態が発覚すれば、買い手としては、高額な資金を投入して対象企業を譲り受けたにもかかわらず、対象企業の営業ができなくなってしまうという事態すら想定されるのです。
 そのようなことになれば、買い手の損失はデューディリジェンスに要する費用とは比較にならないほどの金額になることは目に見えています。上記は極端な例ではありますが、デューディリジェンによって簿外債務や不良在庫が発見されることはママあります(東京地裁令和3年5月11日の裁判例では、対象企業の在庫数が報告と違っていたという理由で、損害賠償義務が認められています。)。
 そのような事態を回避するためにも、デューディリジェンスの実施は不可欠と考えていただきたいところです。



4.「DD(デューディリジェンス)」の種類

 デューディリジェンスは、①事業デューディリジェンス、②財務デューディリジェンス、③法務デューディリジェンス、④その他(税務、IT、人事等)のデューディリジェンスに大別されます。

 ① 事業デューディリジェンスは、経営コンサルタントや買い手の担当者が主体となって行うことが多く、対象企業の事業の市場規模、市場占有率、ブランド、ノウハウ、信用力、営業力等を見極めるために実施されます。

 ② 財務デューディリジェンスは、監査法人や会計事務所が主体となって行うことが多く、対象企業の過去や現在の財務状況を評価し、将来の収益を予測し、M&Aの対価額の決定等に活かしたりします。

 ③ 法務デューディリジェンスは、法律事務所が主体となって行うことが多く、M&Aのスキームに法的問題はないか、対象企業の価格評価に影響を与えるような法律上の問題点はないか、買収後の事業計画に問題がないか等を検討します。


5.「DD(デューディリジェンス)」の手続と期間

 上記の各デューディリジェンスのうち、法務デューディリジェンスについては、概ね以下の流れで対応することが多いです。

  1. 方針の決定
  2. 担当者の事前準備
  3. 関係者によるキックオフ会議
  4. 資料の請求
  5. 資料の開示及び検討
  6. インタビューの実施
  7. 法律問題の調査及び検討
  8. デューディリジェンス結果の報告書の作成
  9. デューディリジェンス結果の報告
  10. (必要な場合には)追加デューディリジェンス

 事案によりますが、対象会社から開示される資料の量が膨大に及ぶ場合、そもそも開示に時間を要することもありますし、法律問題の調査及び検討にも時間を要することになります。そのため、法務デューディリジェンスについては、概ね1か月から3か月程度を要することになります。
 ただし、時間的制限が厳しいような場合には、デューディリジェンスの範囲を特に問題のありそうな分野に限定することで、より短期間でデューディリジェンスを実施する場合もあります。
 過去の経験でいえば、デューディリジェンスがスムーズに実施できるか否かは、対象企業からスムーズに資料が開示されるかという点が非常に重要かと思います(資料が開示されず、デューディリジェンスがとん挫してしまったということもありました)。
 そのため、早い段階で対象企業の担当者と連絡をとり、資料の開示方法についてすり合わせを実施しておくことが重要です。



6.まとめ

 今回のコラムでは、M&Aの実行に向けた「DD(デューディリジェンス)」という手続について説明させていただきました。
 デューディリジェンスを実施しなければ、M&Aの実施後に買い手が思わぬ損害を被ることになりかねません。また、事情によって対象範囲を限定し、コンパクトなデューディリジェンスを実施することも可能となりますので、M&Aをご検討の場合には、デューディリジェンスの実施を強くお勧めします。

弁護士 髙塚 慎一郎