2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
:::::::::::::::::::::::::::::::
契約(電子契約)
:::::::::::::::::::::::::::::::
1.電子契約の有効性
電子的に作成した契約書を、インターネット等の通信回線を用いて契約の相手方に開示し、契約内容に合意する意思表示として、契約当事者の電子署名を付与することによって締結される契約を電子契約といいます。
そして、このような方法で締結された電子契約でも、基本的には有効に契約が成立します。「基本的に」という留保をつけたのは、法律上、一定の類型の契約については書面で締結することが義務付けられているからなのですが、それ以外の殆どの契約については、当事者の一方が相手方に契約締結の申込みを行い、相手方がそれを承諾すれば、紙媒体の契約書の取り交わしを行わなくても有効に契約は成立するとされています(民法第522条)。
2.紙媒体の契約書と電子契約の違い
紙媒体の契約書と電子契約であっても、成立した契約内容(誰が、誰と、いつ、どのような内容の合意をしたのか)を後日証明できるように記録に残しておくことが重要な存在意義になります。紙媒体の契約と電子契約は、証明対象に対する証明方法に表に記載したような違いがあります。紙媒体の契約は、紙に押されている印影と印鑑登録証明書の印影の同一性や、署名の筆跡によって署名者本人による合意や、その後の内容の改ざんが無いことを証明する形式になりますが、電子契約では、電子サイン、電子署名と電子証明書、タイムスタンプといった仕組みによって、署名者本人による合意や、その後の内容の改ざんが無いことを証明する形式になります。
| 証明対象 | 紙媒体の契約 | 電子契約 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 誰が | 署名欄に署名・押印 | 電子サイン・電子署名 |
| 2 | 誰と | 同上 | 同上 |
| 3 | いつ | 日付記入 | 日付とタイムスタンプ |
| 4 | どのような内容の合意をしたか | 契約書に記載 | 電子ファイルに記載 |
| 5 | 合意内容に齟齬がないことの確認 | 原本の取り交わし | 電子ファイルによる受渡し |
| 6 | 合意内容の保管方法 | 紙媒体で保管 | 電子ファイルで保管 |
3.電子契約のメリット
紙媒体の契約に比べて、電子契約には、以下のメリットがあります。
(1)手間と時間の削減
紙媒体の契約を郵送手続で行う場合には、契約当事者の一方が原本を印刷して、署名押印を行い、それを契約相手に郵送して、契約相手が署名押印を行い、押印後の原本を返送するといった手間がかかります。そして、これらの一連の手間には1週間から2週間程度の時間がかかります。これに対して、電子契約の場合には、契約当事者がお互いにパソコンやスマートフォンで作業をすることで完結しますので、手間と時間を削減できます。
(2)費用の削減
紙媒体の契約の場合には、郵送代、印刷費、製本費用、それらの作成に関わる人件費等、多くの費用がかかります。これに対して、電子契約の場合には、インターネットに接続している端末(パソコンやスマートフォンなど)があれば、それで足りますので、費用が削減できます。
(3)印紙代の削減
印紙税法第2条に規定する課税文書に該当する契約書には、印紙を貼らなければなりません。この課税文書は紙媒体で作成した場合に限られ、電子ファイルで作成された場合はこれに該当しないと解されています。そのため、電子契約の場合には、契約書に貼る印紙代を削減できます。
(4)保管スペースの削減
紙媒体の契約書は、契約書ファイルに綴じて書棚やキャビネットや倉庫に保管しなければなりませんでした。特に契約書類は、消滅時効の関係もあるので10年程度保管していることが多いのではないかと思います。その結果、普段は頻繁に参照するような契約書類ではないにもかかわらず、その保管スペースが必要とされています。これに対して、電子契約は有体物に印字せずにデータとして保存しておけるので、物理的なスペースを使わずに何年も保管することが可能です。
(5)テレワークの推進
紙媒体の契約の場合には、書面への押印作業が必要になるため、押印作業のために出社せざるを得ない人がいて、テレワーク推進の支障になることが指摘されていました。これに対して、電子契約の場合には、書面への押印作業が必要ないため、テレワークの推進にも適しています。
4.電子契約を利用する際の課題と注意点
電子契約を利用する際の課題や注意点としては、以下の点があります。
(1)相手の理解
契約は、一方の当事者だけで締結できるものではなく、相手がいます。そうすると、相手が電子契約を締結することに合意してくれなければ、一方の当事者がいくら望んでも、電子契約の締結ができるわけではありません。そのため、相手の理解を得られるか否かが電子契約の導入を進められるかの重要な課題になります。
(2)相手が利用するサービスとの互換性
色々な事業者から電子契約サービスが提供されていますが、相手が利用しているサービスと、こちらが利用しているサービスが異なっていると、相互のサービスに互換性が認められず、結果として電子契約を利用できない場合があります。
(3)法律で書面が要求される契約
先に述べたとおり、殆どの契約は書面で作成することが要求されているわけではありませんが、定期借地契約(借地借家法第22条)、定期建物賃貸借契約(借地借家法第38条第1項)、投資信託の契約(投資信託及び投資法人に関する法律第5条)等、一定の契約については、書面が必要とされていますので、これらの契約について電子契約を利用することはできません。
5.まとめ
電子契約には、多くのメリットがあります。しかしながら、現時点では、公的な電子証明書を発行する仕組みがなかったり、仮に契約内容を巡る紛争が生じた場合に、電子サインや電子署名とタイムスタンプの組み合わせによって裁判所がどの程度の証明力を認めるのかについても不確定な部分があったりすることも確かです。そのため、現時点では導入に躊躇している事業者も多いかもしれませんが、今後、これらの課題を明瞭にするための法整備が進むことも予想されますので、そのような社会的な動向も見据えながら、継続的に導入の検討を進めていただければと思います。
弁護士 奥山 倫行
