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他人事ではない?!不動産にまつわる怖い話

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1.はじめに

 これまでは、個人情報の保護に関する法律をテーマに、令和2年の改正の概要や、その後のいわゆる「3年ごと見直し」の概要をご説明いたしました。

 今回からは、ガラッとテーマを変えて、「他人事ではない?!不動産にまつわる怖い話」として、不動産をテーマに、怖い話をお送りしたいと思います。

 私は、弁護士業務を開始してから、多くの不動産にまつわるご相談を受けてきましたが、比較的よく目にする怖い話があるので、何度かに分けてご説明いたします。

 第一回となる今回は、「地図」をテーマにお送りしたいと思います。


2.「地図」とは?

 皆様は、「地図」という言葉を聞いて、何を思い浮かべたでしょうか。書店やコンビニで売っている本を思い浮かべたでしょうか。あるいは、Google Mapsのようなインターネット上の地図情報を提供するサービスを思い浮かべたでしょうか。

 今回のテーマである「地図」は、本やインターネット上のサービスではなく、不動産登記法第14条第1項に定めのある「地図」を指しています。不動産に携わる者の間では、「14条地図」と呼ばれたりもしています。

 「地図」について、法律では、「一筆又は二筆以上の土地ごとに作成し、各都市の区画を明確にし、地番を表示」したものと定められています(不動産登記法第14条第2項)。具体的な機能に着目すると、土地の筆界(境界)点を測量した精度の高い地図で、一定の誤差の範囲内で境界を復元することができるものということができます。まだわかりにくいですね。ざっくりいってしまうと、法務局が作成した、面積や距離、形状、位置等の正確性が高い地図、となります。

 不動産取引の際には、土地の図面が交付されることが一般的ですが、それが「地図」に当たるか否かを確認するためには、「分類」という部分を見ればわかります。「地図」の場合には、「地図」と書いてあります。なお、「地図」以外には、「地図に準ずる図面」というものがありますが、これは、次回以降にご説明いたします。

 また、「地図」は、図郭の右上と左下に座標(例えば、「+1234.567」や「-987654.321」のような数字です)が記載されています。この座標があることで、筆界(境界)点を確認することができるようになります。

 
 さて、「地図」は、法務局が作成した正確性の高い図面ですが、日本全国では、どのくらい整備が進んでいるのでしょうか。旧不動産登記法が制定されたのが明治32年(1899年)で、約126年前のことなので、大方整備が進んでいるのではないかと予想しているのではないでしょうか。実は、令和6年4月時点で、法務局にある図郭の総枚数のうち、約59%しか整っていないとされています。近年の地図作成の成果事例として、広島市のマツダスタジアムの事例や松山市の道後温泉といった、身近な例も紹介されています。


3.地図上は整った土地なのに…

 さて、不動産の取引といえば、マイホームの購入はもとより、事業をされている方でしたら、本店や事業所、資材置場、社員寮の建設のために不動産を取得したり、第三者に賃貸する目的で不動産を取得する機会があるかと思います。また、宅地建物取引業者でしたら、業として不動産の売買や代理、仲介を行われているかと思います。また、あるときには、借金の代わりに不動産で弁済を受けたり、借金の担保のために抵当権を設定することもあるかと思います。

 今回のご相談は、お金を貸したのに、約束の日までに返してくれないので、代わりにとある温泉地の近くの土地を担保に取ることになったというご相談でした。土地の「地図」を見せていただいたところ、以下のようなものでした。

 さて、あなたは、この「地図」を見て、どのように感じましたか。大きな土地があるので、ホテルや旅館を建てることができそうですし、もしかしたら温泉が出るかもしれません。また、道路も整備されており、比較的小さな土地も複数あり、別荘としての需要もあるかもしれません。そう感じませんか?

 さて、それでは、現地の実際の状況はどうなっているのでしょうか。昔は、現地に赴くしか方法がありませんでしたが、最近では、「地図」とインターネット上の地図情報を重ねることができる便利なサービスがあるので、早速試してみました。すると…。

 なんということでしょうか!データが小さくて分かりにくいのですが、辺り一面が木々に覆われていて、ホテルや旅館を建てたり、別荘とすることはおろか、筆界(境界)点を確認することすら難しそうです。

 おそらく、ここは、過去に原野商法の舞台となっていたり、あるいは原野商法のために準備された土地なのではないかと思います。原野商法の手法の一つとして、あたかも「地図」上は区画整理が行われたかのように整然とした分筆を行い、現地を確認していない人に高値で売りさばいていくというものがあります。近年は、インターネットで簡単に情報を手に入れたり、現地を調査することができるようになりましたが、昔は、情報を手に入れること自体が簡単ではなく、ましてや現地を確認することもできないため、このような原野商法を避けることが簡単ではなかったのだと思います。


4.最後に

 今回は、「他人事ではない?!不動産にまつわる怖い話」として、不動産をテーマに、怖い話をお送りいたしました。不動産に関する取引は、多くの方にとっては、人生で何度も経験をすることではないので、知らないことも多いかと思います。また、決して安いものではありませんので、トラブルになってしまうと、金銭的にも精神的にも参ってしまうと思います。不動産の取引にあたっては、ぜひ弁護士や司法書士といった専門家にも相談してみるようにしてください。

弁護士 田上 淳一