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【宇宙法8】宇宙活動における損害賠償~国内法の観点から~

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1.はじめに 

 前回は、宇宙ビジネス等によるロケット打上げにより第三者に損害を与えた場合、国際法の観点から、「国家への集中責任の原則」を踏まえ、1)民間ロケットの打上げ失敗により他国の地上の第三者に損害が発生した場合、若しくは、2)軌道上で民間人工衛星の衝突により損害が発生した場合の国家間のルールを説明しました。

 本コラムでは、国内法の観点から、損害賠償責任に関する法制度をご紹介したいと思います。

2.国内法の法制度

 わが国の民間事業者が加害者となった場合を想定します。この場合、加害者が負う損害賠償責任は、民法上の不法行為責任や国内宇宙法に基づく責任という形で現れます。

(1)宇宙活動法の規定

 わが国では、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(以下「宇宙活動法」といいます。)において、民間事業者による宇宙活動に伴い発生する損害賠償責任を定めています。すなわち、宇宙活動法では、打上げ行為者と衛星管理を行う者に対して許可を要することとし(同法第4条第1項、第20条第1項)、損害賠償責任について、以下のとおり規定しています。

 ア 打上げに伴う損害

 ロケットの打上げ行為に伴い当該ロケットが損害を与えた場合には、「打上げを行った者」が無過失責任を負います(宇宙活動法第35条)

 第三十五条(無過失責任)

 国内に所在し、又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に搭載された打上げ施設を用いて人工衛星等の打上げを行う者は、当該人工衛星等の打上げに伴いロケット落下等損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負う。

 イ 衛星管理に伴う損害

 第五十三条(無過失責任)

 国内等の人工衛星管理設備を用いて人工衛星の管理を行う者は、当該人工衛星の管理に伴い人工衛星落下等損害を与えたときは、その損害を賠償する責任を負う。

(2)民法の規定

 上記1)で述べた宇宙活動法は、地上、水中、飛行中の航空機等(以下「地上等」といいます。)に発生した損害のみを対象としており、宇宙空間において衛星に発生した損害については特段の規定がありません。
 そのため、軌道上サービスを行うにあたって他の衛星に損害を与えるような場合は、宇宙活動法の適用の対象外となってしまいます。
 そこで、軌道上での人口衛生同士の衝突など、宇宙空間における事故が発生し、いずれかの衛星に損害が生じたような場合には、原則どおり、故意・過失責任を負うことになります。すなわち、一般的な損害賠償責任を規定している民法第709条の不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます(※準拠法が日本法の場合)。

3.軌道上サービスに関する損害賠償責任の問題点

 国内法上、軌道上サービスを行うにあたって他の衛星に損害を与えるような場合には、民間事業者は民法第709条に基づく損害賠償責任、すなわち、過失責任を負うことになります。
 もっとも、この過失の立証の困難性が問題とされています。
 軌道上サービスのような最先端の技術を必要とするサービスにおいては、初めて経験するトラブルが発生することが十分に考えられ、事前に損害の発生を予見し、回避可能だったかどうかに疑義が生じます。また、軌道上で衛星同士の事故が発生したとしても、いずれの衛星の運用者に過失があるのかを実際に認定するには相当なハードルがあり、時間やコストを要することが懸念されます。
 このように、過失責任による場合の損害賠償請求を認めてもらうことは容易ではありません。
 この点、内閣府は、2021年に「軌道上サービスを実施する人工衛星の管理にかかる許可に関するガイドライン」を制定・公表しました。同ガイドラインでは、宇宙活動法に定められた審査基準の解釈指針が示されており、事業者に対して要求される結果回避義務の内容が示されていることから、過失の有無を判断するに際し、参考となるのではないかと考えられます。

弁護士 日西 健仁