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【下請法】「下請法」から「取適法」へ!何が変わるか把握していますか!?

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1. 公布日・施行日

 公布日:2025年5月16日
 施行日:2026年1月1日(一部の規定は公布日から施行)

 ※「下請代金支払遅延等防止法」を「下請法」といいます。
 ※「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」を「取適法」といいます。


2. 知っておくべき主なポイント

 ① 適用対象の拡大
 ② 禁止行為の追加
 ③ 面的執行の強化
 ④ 発注内容等の明示方法の簡易化

3. 概要

(1)前提

 用語の変更があり、下請法上の「親事業者」が取適法では「委託事業者」に、下請法上の「下請事業者」が取適法では「中小受託事業者」に変わりました。

(2)適用対象の拡大

 ア 対象となる取引の内容

 ① 下請法の対象

 まず、下請法は、適用対象となる取引は以下のとおりでした。

【製造委託】
物品を販売し、または製造を請け負っている事業者が、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。

【修理委託】
物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。

【情報成果物作成委託】
ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。

【役務提供委託】
運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託することをいいます。

 ② 取適法の対象

 これに対し、取適法は、上記の取引に加えて「特定運送委託」を追加しました。

【特定運送委託】
事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいいます。

 イ 対象となる企業

 ① 下請法の対象

 まず、下請法は、以下のいずれかに該当する場合に適用があり、企業の資本金の額を適用基準として用いていました。

【物品の製造委託・修理委託・特定運送委託、情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る)の場合】

親事業者下請事業者
1資本金3億円超資本金3億円以下
2資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下

【情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)の場合】

親事業者下請事業者
1資本金5千万円超資本金5千万円以下
2資本金1千万円超5千万以下資本金1千万円以下

 ② 取適法の対象

 これに対し、取適法は、従来の資本金の額に加えて、従業員数も適用基準に追加し、いずれかに該当する場合に適用があります。

【物品の製造委託・修理委託・特定運送委託、情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る)の場合】

委託事業者中小受託事業者
1資本金3億円超資本金3億円以下
2資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下
3常時使用する従業員300人超常時使用する従業員300人以下

【情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)の場合】

委託事業者中小受託事業者
1資本金5千万円超資本金5千万円以下
2資本金1千万円超5千万以下資本金1千万円以下
3常時使用する従業員100人超常時使用する従業員100人以下

(3)禁止行為の追加

 ア 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止

 委託事業者が、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為が禁止されました。

 イ 手形払等の禁止

 委託事業者は、手形払が禁止されます。また、支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段も併せて禁止されます。

(4)面的執行の強化

 従前、指導・助言の権限は公正取引委員会と中小企業庁のみで、事業所管省庁は調査権しかありませんでした。取適法では、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与されます。

(5)発注内容等の明示方法の簡易化

 下請法では、委託事業者は、発注するにあたって、下請事業者の承諾があった場合に限り、発注内容をメールなどの電磁的方法で明示することが可能でした。これに対し、取適法では、中小受託事業者の承諾がなくとも電磁的方法による明示することが可能となりました。
 また、建設機械や荷役運搬機械などについては、定期的な自主検査の実施が義務付けられており、その中でも、油圧ショベルやフォークリフトなどの特定の機械については、1年に1回、一定の資格を持つ検査者による自主検査を受ける必要があります。今回の改正では、かかる自主検査の適正な実施を確保するため、検査の実施基準を定めたうえで、基準違反を犯した検査者や検査業者に対する行政処分が定められました。
 さらに、高圧室内作業やクレーンの運転などの危険な業務について義務付けられている技能講習についても、技能講習修了証の不正交付を禁止して行政処分の対象とするなど、不正防止対策に関する改正が行われます。


4.まとめ

 取適法の適否の判断は、取引スキームに大きな影響を与えます。また、取適法の適用がある場合、委託事業者に対する規制が多くあり、適切に対応する必要があります。
 細かな改正内容がその他にも存在するため、本コラムでは概要の説明にとどめましたが、自社に取適法の適用があるのか否か、また、適用がある場合にはどのような規制があるのかを慎重に検討する必要があります。
 取適法に関する問題でお悩みの際には、お気軽にご相談ください。

弁護士 森谷 拓朗
弁護士 草薙 平