1.はじめに
前回のコラムでは、従業員の副業についてお話ししました。今回のコラムでは、従業員のハラスメントについてお話しします。
従業員のハラスメントが発生したとき、正しい対応をとらなければ、ハラスメントを防げないばかりか、会社の法的責任が問題となる可能性もあります。そのため、今回のコラムでは、以下の事例を例にして、ハラスメントが発生したときの対応方法についてお話しします。
事例
従業員Aから「自分と課長Bと係長Cが参加した会議で、自分が作成した資料に誤記があり、上司である課長Bから、執拗に叱責された。さらに、課長Bからは会議後にLINEでも同様の叱責をされた。課長Bの発言やLINEの内容はあまりに酷かったので、パワハラになるのではないか。」という相談が寄せられた。
2.調査の実施
ハラスメントが発覚した場合、まずは問題となるハラスメントの内容を正確かつ迅速に把握しなければなりません。ハラスメントの内容が不明確なままでは処分を下すことはできませんし、調査に時間をかけてしまうと、ハラスメントが継続してしまい、職場環境が害されるおそれがあるためです。そして、まず行うべき調査の内容は、①関係者からのヒアリング、②客観的資料の収集です。
(1)関係者のヒアリング
まずは、被害者や同じ部署の人間など、関係者から詳細な事実関係をヒアリングする必要があります(加害者からのヒアリングも実施しますが、言い逃れされないために、実施するタイミングはその他の関係者のヒアリングと客観的資料の収集の後に行うことが望ましいです。)。このとき、単に「ハラスメントを受けた」などの抽象的な内容ではなく、5W1Hを意識した具体的な事実を確認する必要があります。
本件の事例では、まずは被害者である従業員Aや会議に参加していた係長Cに対してヒアリングを実施することになります。もともと従業員Aからの相談内容では、会議の日時、場所、課長Bの発言内容や発言に至る経緯等が不明ですので、これらの情報を詳細に聞き取る必要があります。また、ヒアリングした内容は、証拠として残す必要がありますので、議事録や聴取書等を作成して記録化するようにしてください。
(2)客観的資料の収集
客観的資料とは、録音、メール、LINE等のSNSのメッセージ、写真、画像などがあげられます。人の記憶というのは曖昧なものですので、関係者からのヒアリングだけでは、正確な事実関係が把握できないことも多々ありますが、客観的資料からは正確な事実関係を把握することが可能です。
本件の事例では、会議中の録音データや課長BからのLINEのメッセージが客観的資料に当たります。これらの資料があれば、課長Bの行為は客観的に明らかになりますので、非常に重要な証拠となります。
3.暫定的な措置の検討
上記の調査の実施中、対象となるハラスメントの内容を確定まではできない段階であっても、被害拡大を防ぐために暫定的な措置を実施しなければならない場合があります。
本件の事例は、課長Bの従業員Aに対するパワハラが疑われる状況ですが、客観的資料がなく、A、B、Cの他に関係者が多数いるような場合には、事実関係を確認するのに時間を要します。そうなると、ハラスメントの内容が特定できるまで待っていては、被害者である従業員Aが課長Bのパワハラにさらされ続けて被害が拡大してしまう可能性があります。そのような場合に備え、暫定的な措置として、①加害者と考えられる者に対して自宅待機命令を発令したり、②被害者又は加害者の部署を一時的に移動させる等の対応をとることも検討しなければなりません。
4.事実の認定・ハラスメントの違法性の評価
以上の対応を行った上で、問題となる行為について事実関係を認定し、特定した行為が違法なハラスメントに該当するか否かを評価します。
本件の事例では、調査の結果、「課長Bが従業員Aに対し、202★年★月★日★時頃、係長Cも同席している会議の場で、従業員Aの胸倉をつかみながら、30分以上にわたって『こんなミスをしているようでは生きている価値がない、死んでしまえ!』などと怒鳴り続けた」という行為が特定されるかもしれません。
その上で、会社としては当該行為が違法なハラスメントに該当するか否かを判断することになるのです。
5.調査結果に基づく関係者への対応
ハラスメント行為が違法であると判断された場合、会社としては、①加害者に対する懲戒処分の必要性を検討して、必要性が認められた場合には適正な手続を経て懲戒処分を下します。他方、②被害者に対しては加害者への処分を報告します。さらに、③再発防止に向けて、社内での研修や講習等の実施も検討するべきです。
なお、懲戒処分を下す際の手続については、次回のコラムで紹介させていただきます。
6.最後に
今回のコラムでは、従業員のハラスメントが生じた場合の対応方法について説明してきました。
次回以降も、従業員とのトラブルに関し、会社側の視点から記事を書いていこうと思いますので、今後もお読みいただければ幸いです。
弁護士 髙塚 慎一郎
