1. 公布日・施行日
公布日:2022年5月25日
施行日:公布後4年以内
2. 知っておくべき主な改正ポイント
① 法定審理期間訴訟手続は、当事者の双方の申出又は一方の申出及び他方の同意が必要
② 手続開始の日から6か月以内に審理を終結(手続開始の日から5か月以内に主張や証拠を提出、その後1か月以内に証人尋問)
③ 審理を終結した日から1か月以内に判決の言渡し
④ 当事者の双方又は一方は、この手続が開始した後であっても、いつでも、期間の定めのない通常の訴訟手続による審理を求めることが可能
⑤ この手続の判決に対しては、異議の申立てをすることができ、異議の申立てにより通常の訴訟手続による審理及び裁判をすることが可能
3. 改正の概要
(1)令和6年の平均審理期間(民事訴訟の第一審)
令和6年における平均審理期間(民事訴訟の第一審)は、約9.2か月でした。
ただし、簡易な売買代金請求事件、貸金返還請求事件、立替金返還請求事件等を除き、多くの事件が約12か月の審理期間となっています(出典「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書~目次 | 裁判所」)。

(2)法定審理期間訴訟手続
ア 手続の概要
法定審理期間訴訟手続を利用するためには、当事者の双方が申出する、又は当事者の一方が申出し、他方がそれに同意することが必要となります。裁判所は、この手続で審理を進めることを決定したときは、2週間以内の期日(裁判が実施される日)を決め、この期日において、6か月以内の口頭弁論を終結する期日(当事者が主張や証拠を提出できる最終日)及びその終結日から1か月以内の判決言渡しをする期日を決めることになっています。
当事者の双方又は一方は、法定審理期間訴訟手続が開始した後であっても、いつでも、期間の定めのない通常の訴訟手続による審理を求めることができます。また、当事者の双方は、法定審理期間訴訟手続の判決に対して、異議の申立てをすることができ、異議の申立てがあった場合には、通常の訴訟手続により審理及び裁判をすることができます。
法定審理期間訴訟手続は、審理の終結日や判決言渡日が事前に決まるのでスケジュールが明確ですし、手続開始から6か月で判決が出るので迅速な事件解決という点で優れた手続であるといえます。
しかし、6か月という短期間で主張と立証を尽くさなければいけないという点では、当事者に負荷のかかる制度でもあります。また、法定審理期間訴訟手続の途中で、いつでも通常の訴訟手続への移行を申し立てること自体は可能ですが、同じ裁判官がそのまま通常の訴訟手続の裁判官を担当するので、既に事件に対して一定の心証を形成している可能性が高いです。通常の訴訟手続に移行したとしても、当事者は、自身に不利な心証を持っている裁判官の心証を覆さなければなりませんので、同じ裁判官が担当するという点は、この手続の問題点ともいえます。
イ 手続の利用ができない場合
法定審理期間訴訟手続は、審理期間が6か月に制限され、当事者の主張と立証が審理期間との関係で制約されるリスクがありますので、消費者契約事件と個別労働事件では利用できないことになっています。
また、本人訴訟(当事者が代理人を付けずに本人で対応する訴訟)については、法律に適用除外とは明記されていませんが、適正な審理の実現を妨げるおそれがあることから、原則として法定審理期間訴訟手続を利用できないこととされています。
4.まとめ
法定審理期間訴訟手続は、迅速な事件の解決という点では、優れた手続といえます。
しかし、審理期間が6か月という短期間に制限される裏返しとして、準備状況によっては、十分な主張や立証ができないまま、裁判官に心証を形成されてしまうリスクもありますので、この手続の利用には慎重な検討が必要です。
弁護士 森谷 拓朗
弁護士 戸嶋 功太郎
