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【譲渡担保法】譲渡担保権・所有権留保について新たなルールが制定されます!

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1. 公布日・施行日

 公布日:2025年6月6日
 施行日:公布から2年6月を超えない範囲で政令で定める日

 ※「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」を「法」といいます。


2. 知っておくべき主な改正ポイント

 ① 権利の内容に関する内容
 ② 権利の実行に関する内容


3. 改正の概要

(1)法整備の経緯

 不動産を有しない企業が増加していることや、保証人の負担を軽減する観点から、動産(機械設備・在庫商品など不動産以外の財産)又は債権(売掛債権等)を担保の対象とする、譲渡担保権の設定、所有権留保契約の締結という手法が実務上用いられてきました。
 この譲渡担保権、所有権留保については、ルールが法律で明文化されておらず不明確である、ルールに改善点があるなどの問題があったため、この度、譲渡担保権、所有権留保に関するルールを定めた法律が整備されました。

(2)譲渡担保契約の効力に関する規定

 ア 譲渡担保契約の目的物の範囲

 現状では、譲渡できるものであれば、どのような財産でも譲渡担保権の設定が可能でしたが、動産、債権、その他の譲渡可能な財産が目的として規定され、不動産や自動車、知的財産権は譲渡担保契約の対象外とされました。
 これにより、譲渡担保権契約の対象は、不動産、自動車、知的財産権以外の動産及び債権に限定されることになりました。具体例としては、機械設備や在庫商品、売掛債権等があります。

 イ 譲渡担保権者(債権者)の権限

 現状では、譲渡担保権者の権限の範囲が不明確でしたが、下記のとおり、優先弁済権、物上代位、物権的請求権を有することが、明文で定められました。

権利の名称、条文権利の内容具体例
優先弁済権譲渡担保権の目的財産から他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利他の債権者(金融機関等)がいるとしても、譲渡担保契約の目的財産である機械設備の全額について弁済に受けることができます。
物上代位目的財産の代わりに譲渡担保権設定者が取得する金銭からも優先して弁済を受けることができる権利債務者が、目的財産である機械設備を他人に貸している場合、他の債権者がいても、その賃料から弁済を受けることができます。
物権的請求権優先弁済権の行使が妨害されている場合はその排除等を請求できる権利目的財産である機械設備を、他人が盗んだ場合、債権者から他人に対して機械設備を返還するよう請求することができます。

 ウ 譲渡担保権設定者(債務者)の権限

 現状では、設定者の権限の範囲も不明確でしたが、設定者が目的財産を賃貸したり、使用したりできることが明文化されました。
 また、動産の使用収益が妨害されている場合には、設定者は妨害の排除や目的動産の返還等を請求できることも規定されました。

 エ 所有権留保契約

 現状では、所有権留保について明文の規定がなく法律関係が不明確でしたが、動産を目的とする所有権留保契約について規定されました。

(3)集合動産・集合債権を目的とする譲渡担保権に関する規定の整備

 ア 集合動産譲渡担保、集合債権譲渡担保とは?

 集合動産譲渡担保とは、一定の範囲に属する多数の動産全体(構成部分が変動するもの)にまとめて譲渡担保権を設定するものをいい、集合債権譲渡担保とは、一定の範囲に属する多数の債権(将来発生する債権も含まれます)にまとめて譲渡担保権を設定するものをいいます。

(出典:法務省民事局「譲渡担保権及び所有権留保に関する法律について」
https://www.moj.go.jp/content/001440978.pdf

 現状では、集合動産・集合債権譲渡担保権に関する規定が存在しませんでしたが、集合動産・集合債権譲渡担保権を設定できることや、債務者が動産を処分し、債権を取立てることができること、債務者は集合動産・集合債権全体の価値を維持する義務を負うことなどが規定されました。

(4)実行に関する規律

 ア 私的実行について

 従前の判例上、譲渡担保権については、裁判所の手続によらない実行が可能とされていましたが、それを認める明文の規定はありませんでした。そこで、譲渡担保権について、私的実行が可能であることが明文化されました。
 私的実行の具体的方法として、目的財産を債権者自身が取得する方法(「帰属清算方式」といいます)と目的財産を第三者に譲渡し、その代金を弁済に充てる方法(「処分清算方式」といいます)の二つが定められました。

 イ 裁判手続について

 私的実行以外に裁判所の手続による実行が可能かどうかについても不明確でした。そこで、動産譲渡担保権については、裁判所の手続として、目的財産の価値を低下させないための手続や目的財産を債権者に引き渡すよう請求する手続も選択可能であることが明確化されました。

4.まとめ

 以上のように、譲渡担保権及び所有権留保について法整備が進み、ルールが明文化・明確化されました。
 ただ、ルールが複雑で分かりにくい部分もあるかと思いますので、今後、取引の際に、不動産以外の財産(取引先が有する機械設備や売掛債権など)に担保を設定することをお考えのときは、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

弁護士 森谷 拓朗
弁護士 河合 響子