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弁護士に学ぶ!成長のための企業法務~メルマガ版~vol.6(刑事手続(司法取引))

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  2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。

 ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。

今回のテーマは↓です。

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 刑事手続(司法取引)

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1. そもそも司法取引って何?

 ハリウッド映画を見ていると「罪を認めれば、刑を軽くしてやる」といった場面がでてきたりするので、アメリカにはそのような制度があるのかとは思っていましたが、日本でも司法取引が行われているのでしょうか。

 司法取引の制度は、従来、日本法では認められていませんでしたが、2016年の刑事訴訟法改正の際に「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」が導入され、2018年6月1日から施行されています。

 司法取引というのは、刑事事件の被疑者や被告人が、犯罪に関する情報を明らかにする見返りに、自身の刑事処分の軽減を受けられる制度です。

 具体的には、犯罪に関する情報を明らかにした結果、検察官に起訴を見送って貰ったり、求刑を軽くして貰ったりすることになります。


 司法取引には、大きく2つの類型があります。

類型内容備考
1自己負罪型自分の罪を認めれば恩恵を得られる。アメリカで採用
2捜査・公判協力型他人の罪を明らかにすれば恩恵を得られる。日本で採用


2.アメリカ型(自己負罪型)

 映画や海外ドラマで、我々がよく目にするのは「自己負罪型」と言って、自分の犯罪について、自白したり捜査に協力したりする代わりに、便宜を図って貰う類型です。アメリカでは、陪審制で裁判が行われるので、どのような判決がでるかは陪審員がどのように判断するかにかかっていて、訴訟の当事者も明確な予測をつけることが容易ではありません。

 他方で、司法取引を行えば、ある程度想定内の結果に収まるので、訴訟の当事者にとってメリットがあると考えられています。正確な数字ではないかもしれませんが、アメリカでは8割の刑事裁判が司法取引で終結していると言った話もあるくらい定着しています。

3.日本型(捜査・公判協力型)

 他方で、日本では、これまで司法取引は認められていませんでしたが、2016年の刑事訴訟法改正の際に導入され、2018年6月1日から施行されています。正式な名称は「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」といいます。日本で採用されたのは「自己負罪型」ではなく、「捜査・公判協力型」といって、他人の犯罪を明かすと刑罰免除や減刑を受けられる類型です。

 記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、この制度が最初に適用されたのは、三菱日立パワーシステムズ社員の贈収賄事件(タイ南部での火力発電所建設に絡み現地公務員に賄賂を提供していた事件で、元幹部3人が個人として起訴されたにもかかわらず、東京地検特捜部の捜査に全面協力した見返りとして、会社は起訴を免れた事件)です(日産自動車の会長らの金融商品取引法違反の事例が第2例目でした)。


 日本版司法取引の対象になる犯罪は、贈収賄や談合、脱税といった企業が関わる「経済犯罪」のほか、暴力団などがからむ特殊詐欺、薬物・銃器犯罪などの「組織犯罪」とされています。

 企業が絡む経済犯罪や組織犯罪等の場合には証拠収集も容易ではありませんでしたが、この制度によって、捜査機関は、関係者の供述や関係者の協力によって供述証拠以外の証拠を集めやすくなることが期待されています。

 また、これまで、会社の命令で違法行為やグレーな行為に関与せざるを得なかった役員や社員が、自分の信念に基づいて違法行為を明らかにし始めることも予想され、社会に、よりコンプライアンスが浸透していくことが期待されています。

 ただ、他方で、自分の罪を免れるため虚偽の供述をしたり、事件に関係の無い人が巻き込まれたり、無罪の人が罪に問われる「えん罪」が増えてしまったりする危険性も指摘されていますので、今後は重大な人権侵害が生じないように、警察における取調べを可視化する制度の導入も検討されているところです。

弁護士 奥山 倫行