1.はじめに
「デザインに趣向を凝らして建築物を設計したのに、それを第三者に無断で模倣されてしまった・・・」このような問題が起きたときにどのような対処ができるのでしょうか。
今回のコラムでは、建築に関する法制度のうち「建築デザインの保護に関する法制度」について解説したいと思います。
2.「デザイン」を保護する法律とは?
「デザイン」という言葉には多様な意味が含まれますが、プロダクト・デザイン(製品のデザイン・使うためのデザイン)、ビジュアル・デザイン(情報のデザイン・伝えるためのデザイン)、エンバイロメント・デザイン(環境のデザイン・居住するためのデザイン)の三つの分野に分けることができます。
「デザイン」の保護に関する法律には、意匠法、著作権法、商標法、不正競争防止法などの知的財産法(後記の図表)がありますが、「建築デザイン」(建築物の外観及び内装)もこれらの法律により保護される余地があります。
以下では、デザイン関連法のうち、近時、法改正のあった「意匠法」を中心に概要を説明させていただきます。

3.意匠法による保護
(1)「意匠」とは?
意匠法により保護される「意匠」とは、物品等の形状、模様、色彩又はこれらの結合であり、資格を通じて美観を起こさせるものとされています(意匠法2条1項)。
従来、不動産である建築物は「物品」には含まれず、組合家屋など動産としてとらえることが可能なものに限り、「物品」として意匠権により保護されていました。
しかし、2018年にデザインを重要な経営資源と位置付けたデザイン経営により企業の産業競争力等の向上を目指す政策提言(「デザイン経営」宣言)が経済産業省・特許庁から出されたことを受け、2019年に意匠法が改正され、意匠法の保護対象に「建築物」や「内装」(店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾)も追加されることになりました(意匠法2条1項、同法8条の1)。
(2)どのような場合に保護される?(「意匠」の登録要件)
「建築物」や「内装」が意匠として保護されるためには、保護を受けようとする意匠について特許庁に対して意匠登録の出願をしなければなりません。
意匠登録の出願が認められるためにはいくつかの条件がありますが、「建築物」や「内装」の意匠登録に当たっては、以下の条件が特に重要となります。
① 新規性(過去の公知デザインとの類似性がないこと)
- 意匠登録が認められるためには、既に公に知られた過去の建築デザインと同一ではなく、類似もしないことが条件となります(新規性:意匠法3条1項)。
具体的な判断方法としては、出願された建築デザインと比較対象となる過去の建築デザインの共通点と相違点に着目した上で、それぞれが取引関係者の注意を引く部分かどうかを評価し、全体として取引関係者に異なる美感を生じさせるかどうかで「新規性」を判断します。
商業施設等の建築では施工前に完成予想図を公表することも少なくありませんが、「新規性」は、創作者や発注者が意匠登録の出願前に自ら公表することによっても、原則として喪失されてしまいますので(ただし意匠法4条の例外規定あり)、まずは公表前に出願を完了させるようにご注意ください。
② 創作非容易性
- 意匠登録が認められるためには、既存のデザインから当業者が簡単には創作できないデザインであることも条件となります(創作非容易性:意匠法3条2項)。
既存の公知のデザインとの差異に着目した際に、新たに創作した内容がありふれた手法(デザインの構成要素の置き換えや寄せ集め、一部の構成要素の単なる削除、配置の変更等)にとどまる場合には「創作非容易性」が認められません。
(3)どのような対応ができる?(意匠権に対する侵害への対応)
建築デザインの意匠登録が完了した場合、第三者がその建築デザインと類似するデザインの建築物を反復継続して利用する行為、具体的には類似の建築物を建築・使用・譲渡・貸渡すなどの行為は、原則として意匠権侵害となります(意匠法23条・2条2項2号)。
そして、第三者による意匠権侵害に対しては、侵害行為の差止め(意匠法37条)、侵害により自己が受けた損害の賠償を請求すること(民法709条、意匠法40条)ができます。
そのため、冒頭の事例(デザインに趣向を凝らして建築物を設計したのに、それを第三者に無断で模倣されてしまった事例)では、設計した建築物について意匠登録ができていれば、それを模倣して類似の建築物を建築した業者に対し、建築の差止めや損害賠償の請求ができる可能性があります。
(4)意匠登録された「建築物」「内装」の実例
上記の意匠法改正後、以下の建築物や内装の意匠が登録されています。
① 建築物(「商業用建築物」)の意匠(ユニクロPARK横浜ベイサイド店)


参考:経済産業省「建築物、内装の意匠が初めて意匠登録されました」(https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201102003/20201102003.html)
② 建築物(「駅舎」)の意匠(上野駅公園口駅舎)


③ 内装(「書店の内装」)の意匠(蔦屋書店)


④ 内装(「回転寿司店の内装」)(くら寿司浅草ROX店)


4.まとめ
今回のコラムでは「建築デザインの保護に関する法制度」について、意匠法改正を中心に概要をご紹介してきました。
自社で創作したデザインを意匠登録することにより、ライバル企業や模倣品メーカーに対して牽制することや(ビジネスを守る)、取引先企業や顧客に対する信頼性向上やオリジナリティの証明、協力企業に対するライセンス機会を創出すること(ビジネスを発展させる)が期待されますので、意匠登録を積極的にご検討いただけますと幸いです。
コラムをお読みいただきご相談がありましたら、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
弁護士 三本竹 寛
