2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
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労務(資格取得費用等の返還合意)
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プログラミング教室に限ったことではありませんが、従業員が業務に必要な資格を取得したり、セミナーや研修会に参加したりする場合に、会社が費用を負担することがあります。
取得する資格や受講する講座の内容によっては、費用が高額になる場合もありますので、会社としても資格を取得したり講座を受講したりした後に、従業員がすぐに会社を辞めたりしてしまうと大きな痛手を受けることになります。
そこで、退職時期と費用の返還に関して、従業員との間で合意することがあるのですが、内容によっては労働基準法違反の問題が生じる可能性があります。そのため、本稿の内容を確認した上で、進めるようにしてください。
1.労働基準法に違反しないために
日々の業務の中で、この種の相談を受ける機会があります。その中で、従業員に対し「資格取得後〇年以内に退職した場合にはその資格取得費用を全額返還する」といった内容で誓約書を書かせている例を散見しますが、この内容で誓約させてしまうと、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定している労働基準法第16条に違反することになります。
そのため、一定期間内に従業員が辞めた場合に、資格取得費用を返還させるとか、資格取得費用相当額を賠償させるといった内容で制度設計をするのではなく、会社が従業員に対して資格取得費用を貸し付けることにした上で従業員が資格取得後も一定期間継続して勤務した場合には貸付金の返済を全額免除したり、勤続年数に応じて段階的に返済を免除したりする内容(以下では、このような方法を「貸付方式」といいます)で制度設計をして、労働基準法第16条に違反しないようにする必要があります。
ただ、貸付方式を採用したとしても、万全ではありません。貸付方式の制度設計や運用を誤ると、やはり法律違反と判断される可能性がありますので、次に述べる注意点を確認しながら進めてください。
2.有効な貸付方式を設計する際の注意点
有効な制度として設計するために重要なポイントは、従業員を不当に拘束しないことです。
従業員には、憲法第22条第1項によって退職の自由(職業選択の自由)が認められていますので、費用の返還が重荷になって、その会社を自由に退職できない状態になっていると、合意自体が無効であると判断される可能性があります。
そして、合意自体が無効になると、従業員の会社に対する返還義務も無くなりますので、会社は経済的な損失を被ることになります。そのため、貸付方式を採用する場合も、以下のポイントを確認して、従業員の退職の自由を不当に制限しないようにする必要があります。
(1)対象となっている費用の性質
対象となっている費用の性質がどのような性質かを確認してください。従業員のセミナーへの参加や資格の取得が、専ら会社の利益を向上させるための取り組みであり、会社が営んでいる業務との関連性が強い場合、すなわち資格を取得しないと担当業務を遂行できないとか、社会人として誰もが知るべきマナーを学ぶような新入社員研修とかの場合には、それらの費用は、そもそも会社が負担すべきものと考えられ、従業員から費用の返還を約束させること自体が合理性の無いものと判断されます。
他方で、将来、会社を離れて自分で創業するために大学院に通ってMBAを取得しておきたい等、主に従業員の個人的な利益に資する費用は、従業員から費用の返還を約束させても合理性があると判断されます。
(2)会社からの強制の有無
資格の取得や研修への参加が、従業員の自由な意思に基づくものか否かも重要なポイントになります。資格を取得したり、研修に参加したりすることが、形式的にみれば主に従業員の個人的な利益に資するものだったとしても、会社が強制して参加させて、従業員に対して会社の立替費用を返還するまで一定期間の就労を義務付ける内容だと、従業員の退職を不当に侵害するものと判断されることになります。
(3)費用の金額が社会的に相当であること
費用の金額も、社会的にみて相当なものである必要があります。あまりに高額な費用の立替が前提になっていると、結果的にみると、従業員が何年たっても会社を辞めることができなくなってしまい、事実上、従業員の退職の自由を不当に制限していると判断されることになります。
(4)費用を返還すればいつでも退職できるようにすること
貸付方式をとっていたとしても、従業員が会社の立て替えた費用を支払えば、いつでも退職できるような形式にしておく必要があります。他方で、従業員が会社の立て替えた費用を支払ったとしても、一定期間の就労を終えた後でなければ退職できないような貸付方式は、従業員の退職の自由を不当に侵害するものと判断されてしまいます。
(5)費用の返還が免除されるまでの就労期間が不当に長くないこと
費用の返還が免除されるまでの期間も重要です。この期間が長いと、実施的にみて従業員の退職の自由が制限されることになるからです。この点については、何年以内であれば良いと法律や判例で決まっているものではありませんが、過去に争われた裁判例を参考にすると1年~3年程度の期間で設計しておくのが望ましいと考えます。
3.まとめ
会社が、会社の費用負担で、従業員に資格取得を促したり、講習やセミナーへの参加を促したりするのは、会社がその従業員の成長や今後の会社への貢献を期待してのことです。しかし、貸付方式を採用したとしても、それが有効なものと判断されるためのハードルは意外に高いと言えます。後に「いやあ、期待して費用を出したのに、結果的に裏切られちゃって・・・」などと嘆かないためにも、日頃から適切な人選ができるようにするためのコミュニケーションと、それを支える適切な職場環境の整備を進めるようにしてください。
弁護士 奥山 倫行
