当事務所のHPはこちらです。https://ambitious.gr.jp/

【宇宙法4】衛星リモセン法

この記事は約4分で読めます。

1.はじめに 

 前々回【宇宙法2】は、宇宙政策に関する初めての国内法である「宇宙基本法」の概要を紹介し、前回【宇宙法3】は、宇宙基本法の制定後に制定された宇宙二法の一つである「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」(宇宙活動法)を紹介させていただきました。
 今回は、宇宙活動法とともに制定された、宇宙二法のもう一つの「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱の確保に関する法律」(衛星リモセン法)について説明します。

2.リモートセンシング 

 衛星リモセン法を紹介する前に、まず、「リモートセンシング」とは何かを説明します。

 リモートセンシングとは、遠く離れたところ(リモート)から、対象物に触れずに対象物の大きさや形や性質を測定する(センシング)技術のことをいいます。衛星リモートセンシングの特徴としては、広域を一度に撮影できること、地球を一定周期で観測できるので同一地点の比較観測ができること、肉眼では観測できない情報(気温や大気の様子等)を取得できること等が挙げられます。
 衛星リモートセンシングで得られた情報は、多くの場面で利用されています。たとえば、天気予報、災害監視、資源探査、森林管理、漁場利用、土地利用などです。


3.衛星リモセン法とは

 上記のとおり、人工衛星に搭載された装置を用いて地球の表面を観測した衛星リモートセンシング記録は、農業、水産業、防災等の幅広い分野で活用が期待される一方、それを手に入れた国際テロリスト等により悪用される懸念もあることから、その適正な取り扱いを定める必要があります。
 そこで、衛星リモセン法(以下「法」といいます)は、大きく分けて次の2つの規制を設けています。以下では、2つの規制内容を説明します。


① 衛星リモートセンシング装置の使用に関する規制

② 衛星リモートセンシング記録の流通に関する規制



4.①衛星リモートセンシング装置の使用に関する規制

(1)事前許可精度

 衛星リモートセンシング装置の使用においては、当該装置の分解能(対象物判別精度)が内閣府令で定める基準を超える場合には、当該装置の使用につき、事前に内閣総理大臣の許可を得る必要があります(法4条1項)。これは、衛星リモートセンシングによって取得される記録の精度が高いほど悪用されるリスクも高くなることから、精度の高い記録を収集する装置の使用を事前に規制することを目的にしています。
 なお、地球表面ではなく、天体や宇宙空間を観測する衛星リモートセンシング装置は規制を受けません。また、日本国外の操作用無線設備から衛星を操作する場合も規制の対象外となります。

(2)使用者の義務

 衛星リモートセンシング装置の使用許可の実効性を担保するため、当該装置の使用者には義務が課されています。以下では、そのうちの主な義務を説明します。

  1. 符号化処理義務(法8条)
    衛星リモートセンシング装置及び観測されたデータ(検出情報電磁的記録)に対して許可を受けた者以外の者がアクセスしないために暗号化等の措置を講じる義務です。
  2. 機能停止義務(法9条)
    衛星リモートセンシング装置が搭載された人工衛星が許可を受けた軌道を外れたときは当該装置の機能を停止する義務です。
  3. 許可された受信設備以外を使用しない義務(法10条)
    衛星リモートセンシング装置から記録を受信するときは、許可を受けた受信設備以外の受信設備を使用しない義務です。
  4. 使用状況の記録・保管義務(法12条)
    衛星リモートセンシング装置に対する信号の送信や観測データの受信、記録の他者への提供など、当該装置の使用状況について記録し、保存する義務です。


5.衛星リモートセンシング記録の取扱いに関する規制

(1)衛星リモートセンシング記録

 衛星リモートセンシング装置から得られた記録のうち、テロリスト等の手にわたることが望ましくないと考えられるものは、「衛星リモートセンシング記録」(法2条6号)と定義され、その流通が規制されます。
 規制対象となるのは、①何ら補正修正していない「生データ」及び②補正処理を施し、かつメタデータを付した「標準データ」です。一方で、③高次の解析作業を施した「解析データ」は規制の対象外です。解析データは、地形や大気の情報が抽出されるなど付加価値の付いたデータのことですが、高次処理によって不可逆的なデータとなっており、悪用の危険性が低いためです。

(2)流通の規制

 衛星リモートセンシング記録は、原則として、許可を受けた衛星リモートセンシング装置の使用者、特定取扱機関又は認定を受けた衛星リモートセンシング記録取扱者の間でのみ流通させることができます。衛星リモートセンシング記録取扱者は、内閣総理大臣の認定を受ける必要があります(法21条)。

6.小括

 本稿では、衛星リモセン法の概要を紹介させていただきました。今後のビジネスにおいて、衛星リモートセンシング記録の利活用は重要な選択肢になるかと思います。ただ、本稿で説明した規制のほかにも、知的財産権、プライバシー権、個人情報の取扱い等、別の法的な問題も絡み合ってきます。人工衛星を使ったビジネスは、多くの方が関心を寄せている分野ですので、今後どのように発展していくのか注目したいです。

弁護士 日西 健仁