1.はじめに
前回のコラムでは、事業承継をサポートする支援機関として、どのようなものがあるか、また、それらの支援機関による望ましい支援の形がどのようなものであるかについて説明させていただきました。
今回のコラムでは、事業承継の手法のうち、M&Aについて、情報管理の重要性について説明させていただきます。
2.M&Aの流れ
情報管理の重要性について説明する前に、一般的な流れを説明させていただきます。M&Aの一般的な流れは以下のとおりです。
① M&Aの検討開始
② 外部協力者の選定と契約の締結
③ 企業価値評価/買収条件の検討
④ 売却候補先/買収候補先の絞込みと選定
⑤ 売却候補先/買収候補先と秘密保持契約の締結
⑥ 基本条件の交渉
⑦ 基本合意書の締結
⑧ 詳細調査(デューデリジェンス)
⑨ 詳細調査の結果に基づく交渉
⑩ 最終合意書の締結
⑪ M&Aの実行
このように、M&Aの実行までには非常に多くの工程を経るため、実行までにどんなに早くとも3か月から6か月程度、長ければ2年ほどの時間を要することがあります。
M&Aに関する不正確な情報が外部に漏れてしまうと、多くの不利益が生じることになりますが、上記のようにM&Aの実行までには長期間を要しますので、その間、不正確な情報が外部に漏れないように細心の注意を払う必要があります。
3.情報管理の重要性
そもそも、M&Aにおいて情報管理が重要なのは、売手・買手いずれにおいても、M&Aの不確実な情報は、従業員や取引先などに信用不安を生じさせるものであるためです。
不確実な情報が出回ることで、従業員が不安に陥って退職してしまうこともあり得ますし、場合によっては金融機関からの融資を打ち切られてしまったり、取引先から取引を打ち切られてしまうこともあります(上場企業の場合にはインサイダー情報になる場合も多いです。)。
そのため、情報管理は徹底する必要があります。
4.情報管理の方法
M&Aの情報管理の方法としては、①関係者とは秘密保持契約を締結する、②機密情報扱いとして、物理的にも厳重に管理する、③そもそも情報に接することができる人間を限定する等が考えられます。
②③は、基本的なことではありますが、これらを軽視すると、従業員等の内部の人間には簡単に情報が漏れてしまい、混乱を招くことになりかねませんので、とても重要なポイントになります。
5.秘密保持契約書
このように、M&Aの情報管理の方法として、秘密保持契約を締結することがあります。
「NDA(Non-disclosure Agreement)」、「CA(Confidential Agreement)」という略語が使われることもありますが、いずれも内容としては秘密保持契約として、当事者間で秘密を保持する際に締結する契約となります。
秘密保持契約では、以下のような内容を取り決めることが多いです。
① 秘密情報を開示する目的
秘密保持契約を締結する目的は、秘密情報を開示した当事者が許諾した目的と範囲においてのみその秘密情報を使用するように相手方に義務付けるためですので、情報を開示する目的を明記します。
② 秘密情報の内容
当事者が秘密保持義務を情報がどのようなものであるかを取り決めなければ、秘密保持契約を締結する意味がありませんし、後に「この情報は秘密情報ではない」などと争いになる可能性もありますので、秘密情報の内容は明確に取り決める必要があります。
③ 秘密保持義務を負う人的範囲
当事者が秘密保持義務を負うのはもちろんのこと、M&Aの関与者(外部協力者当)にも秘密保持義務を負わせなければ、情報が漏洩する危険性がありますので、当事者以外にも秘密保持義務を負わせる旨を規定することがあります。
④ 秘密保持義務の管理体制
必ずしも設けなければならない条項ではありませんが、情報の管理体制も明記しておくと、予防的な効果もありますし、万が一、情報漏洩が生じた場合、相手方が情報の管理体制を整えていなければ、その点を指摘して責任追及していくことも考えられます。
⑤ 複製に関する対応
M&Aでは非常に多くの情報が開示され、これらの情報が記録された媒体(紙や電子媒体等)は容易に複製可能ですので、複製物の扱いについても明確に取り決めておく必要があります。
⑥ 契約終了後の措置
先ほど説明したとおり、M&Aの実行までには多くの手順を踏むことになり、途中で交渉が決裂することも少なくありません。そのような場合に備えて、契約終了後もM&Aに関する情報を保持するために、契約終了後の措置についても規定する必要があります。
⑦ 秘密保持義務を負う期間
当事者が秘密保持義務を負う期間を明らかにするため、秘密保持義務を負う期間も明記することが通常です。
6.まとめ
今回のコラムでは、M&Aにおける情報管理の重要性について説明させていただきました。
M&Aに関する不正確な情報が流出してしまうと、当該M&Aに支障を来たすばかりか、会社の事業そのものにも悪影響が生じることがありますので、情報の扱いには細心の注意を払う必要がありますので、ご注意ください。
弁護士 髙塚 慎一郎
