2018年春から、帝国ニュース【北海道版】で「弁護士に学ぶ!成長のための企業法務」というタイトルで毎月1回連載させていただいています。
ここでは、同連載でこれまで取り上げたテーマを振り返りつつ、法改正や実務動向の変化を踏まえて、要点のみを改めて端的に伝えていきます。
今回のテーマは↓です。
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労務(在宅勤務制度)
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新型コロナウイルス感染症の流行を機に、在宅勤務制度に移行した企業も多いと思います。
在宅勤務制度に移行する場合、従業員の就業場所や勤務形態を変更することになりますので、適切な配慮をせずに何気なく導入してしまうと労働法上の問題が生じかねません。
在宅勤務制度を正しく導入して、適切に運用するために、本稿の内容を今一度ご確認ください。
1.在宅勤務への移行手続
在宅勤務に移行する場合の手続ですが、これまで会社を就業場所としていた従業員を在宅勤務に切り替えることは、労働条件の1つである就業場所の変更になります。そのため、従業員と個別に合意するか(労働契約法第8条)、又は就業規則で労働契約の内容の変更をする(労働契約法第9条及び同法第10条)必要があります。
2.労働時間の管理
会社は、従業員の労働時間を適切に管理する責務を負っています。そのため、在宅勤務で勤務する従業員に対しても、原則どおり、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は60分以上の休憩を与えなければなりませんし(労働基準法第34条1項)、労使協定を締結していない限りは、休憩時間を一斉に与えなければならないこと等に注意が必要です(同法同条2項)。特に、在宅勤務になると、仕事とプライベートの時間の切り分けが難しく、長時間労働になりやすいと言われています。
長時間労働や、時間外労働、サービス残業を防ぐためにも、業務時間外に電話やメール、チャットのやりとりをしないようにしたり、日々業務日報を提出してもらって確認したりすることが必要です。
また、従業員が勝手に時間外労働や休日労働をしないように、就業規則に「在宅勤務者が時間外労働、休日労働及び深夜労働をする場合は所定の手続きを経て所属長の許可を受けなければならない」とか「在宅勤務者については、原則として時間外労働、休日労働及び深夜労働をさせることはない」といった規定を設け、予め周知しておくことが有益です。
3.業務評価等
一定の成果物の提出が要求されるような従業員であれば、それをもとに評価することができますが、評価に悩む業務に従事する従業員もいると思います。一般的には成果を求めすぎると、そのプレッシャーで従業員が長時間労働になりがちだということも指摘されていますので、どのような業務内容を与え、それに対してどのような点を評価するかを検討しておくことが大切です。
一定の指標がないと、自分が適切に評価されているか不安に感じる従業員も出てきてしまい、それが職場に対する不満につながって労使間のトラブルに発展しかねませんので、注意が必要です。数値面だけではなく、能力向上に向けた取組姿勢や、提案内容等、会社が課題や目標を設定してチェックシートにまとめて従業員に説明したうえで配布したり、人事評価が行われた後もチェックシートを求めてフィードバックする機会を設ける等、評価する側と評価される側のギャップを埋める工夫が求められるところです。
4.通信費等の負担
在宅勤務にあたって生じる通信費やパソコン、スマートフォン、タブレット、文房具等の購入費用を会社が負担するかどうか、会社が負担するとして従業員からの請求方法や会社が負担する金額等を明確にしておく必要があります。労働基準法第89条5号は「従業員に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」を就業規則に規定する必要があるとしていますので、決定された内容に応じて、就業規則も変更する必要があります。
5.在宅勤務中の従業員がケガした場合の対応
在宅勤務中に従業員がケガをした場合ですが、ケガをした原因や状況にもよりますが、基本的には、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じた業務上の災害として労災保険の対象として扱われることが多いと思います。
6.情報管理の徹底
在宅勤務になった場合の情報の取扱いについては注意が必要です。会社の営業用の資料であっても、自宅に持って帰ると気が緩んでしまうこともあり得ます。そのため、必要な情報以外は持ち出さないことや、一旦持ち出した情報であっても必要な業務が終わったら破棄したり返却してもらったりする必要があります。また、改めて注意喚起を促す意味で、情報管理を徹底することや、自宅外への持ち出しを禁止すること等の注意事項を記載した「誓約書」を提出してもらうことも有効です。
弁護士 奥山 倫行
