1.はじめに
北海道では雪も降り始め、例年、スリップ等を原因とした交通事故の発生がみられる季節になりました。交通事故により損害を発生した場合、加害者は被害者に対し、不法行為責任(民法第709条)、使用者責任(民法第715条)、運行供用者責任(自動車損害賠償保障法第3条)等の法律により賠償責任の有無が決せられます。
この点、宇宙ビジネス等によるロケット打上げにより第三者に損害を与えた場合は、どのような法的取り扱いがなされるのでしょうか。たとえば、1)民間ロケットの打上げ失敗により他国の地上の第三者に損害が発生した場合、若しくは、2)軌道上で民間人工衛星の衝突により損害が発生した場合、誰がどのような責任を負うのかという問題です。
本コラムでは、国際法(条約)の観点から、損害賠償責任に関する法制度をご紹介いたします。
2.国家への責任集中の原則
(1)宇宙条約の規定
宇宙開発に関する事故では、損害が非常に大規模になる可能性が高いです。そのため、「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」(以下「宇宙条約」といいます)第6条では、宇宙活動の主体が国であっても民間事業者であっても、国家は自国の宇宙活動に国際的な責任を負うと規定され、宇宙物体の発射により他国に損害を与えた場合には国際的に責任を有する(宇宙条約第7条)こととされています。これを「国家への責任集中の原則」と呼びます。
(2)宇宙損害責任条約の規定
宇宙活動(宇宙物体)によって生じた国際的な損害賠償については、主に「宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約」(以下「宇宙損害責任条約」といいます)でルールが決められています。以下に概要を説明します。
ア 責任者
宇宙損害責任条約第2条は、宇宙活動に関して損害が発生した場合の責任については「打上げ国」が負うと規定しています。
そして、同条約第1条では「打上げ国」とは、①宇宙物体の打上げを行い、又は行わせる国や、②宇宙物体が、その領域又は施設から打ち上げられる国、と定義されています。 民間事業者による宇宙活動に伴い損害が発生した場合にまで、国家が「打上げ国」としての責任を負わなければならないかという点については議論があるようです。外国の企業が自国での打上げで損害を発生させたケースでも、当該打上げ国が責任を負うことになってしまうからです。
イ 過失の有無
① 打上げ関連等の事故【無過失責任】
宇宙物体が地表において引き起こした損害または飛行中の航空機に与えた損害について、打上げ国は無過失責任を負う(損害の発生について故意又は過失の有無に関わらず責任を認める)とされています(宇宙損害責任条約第2条)。
したがって、打上げ国(国家)は、被害者に対して過失の有無に関わりなく、損害賠償責任を負うこととなります。
② 宇宙空間での事故【過失責任】
他方で、たとえば宇宙空間での衛星同士の衝突事故等といった地表以外の場所において引き起こされた損害は、打上げ国に過失がある場合に限り、責任を負うと規定されています(宇宙損害責任条約第3条)。
ウ 国から加害者への求償請求
宇宙損害責任条約に基づき国家が賠償責任を負うのは、国外の被害者に対する責任です。その上で、国家が被害者に賠償した後は、国家は加害者に対して賠償した分を求償することになります。
宇宙活動に伴い発生する事故では、莫大な損害になることが想定されます。そのため、民間事業者が宇宙事業に参画する場合には、このようなリスクを踏まえ、宇宙賠償責任保険に加入すべきといえます(本コラム「【宇宙法6】宇宙旅行の法的課題」をご参照ください)。
3.まとめ
今回は、「国家への集中責任の原則」を規定する宇宙条約や宇宙損害責任条約の一部を紹介させていただきました。
もっとも、条約はあくまで国家間のルールであり、加害者と被害者の関係は直接規律されていません。すなわち、宇宙損害責任条約は「外国及び外国人に損害が生じた場合」に適用されるものであって、自国民への損害については国内法による救済に任されることとなります(宇宙損害責任条約第7条)。
次回以降では、国内法上の損害賠償責任に関する法制度をご紹介できればと思います。
弁護士 日西 健仁
