前々回、前回に続き、インターネット時代の著作権侵害事案を紹介します。
1.事案の概要
今回紹介するのは、大手家具量販店のIKEAの商品写真について争いとなった事案です(東京地判平成27年1月29日)。
被告は、平成21年12月ころから、「IKEA STORE」の名称(名称は後に変更)のインターネットサイト(以下「本件サイト」といいます)を運営し、IKEAの商品の買物代行業を行っていました。当時、IKEAは通信販売を行っていなかったようで、近くにIKEAが無い人にとって、このような買物代行は需要があったようです。
そして、本件サイトには、利用者が商品を選択しやすいように多数の商品写真を掲載していたのですが、その商品写真はIKEAがインターネットサイト等に掲載している商品写真と同一のものでした。つまり、被告が自身で商品写真を撮影したのではなく、IKEAが掲載している商品写真をそのまま利用したものでした。
そこで、本件サイトに掲載されている商品写真がIKEAの著作権を侵害するとして訴訟となりました(なお、訴訟では、商標権侵害なども争点になっていますが、このコラムでは著作権に限定します)。
下の画像が、本件サイトに掲載されていた写真と、IKEAのインターネットサイトに掲載されていた写真の一例です(裁判所HPの判決別紙より引用)。実際には、数多くの商品写真が訴訟で問題となっています。

2.著作物性
(1)著作物性とは
文章でも、写真でも、何でも、制作したものが全て著作権法によって保護されるわけではありません。著作権が発生し、保護されるためには、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条1項1号)であることが必要です。これを著作物性といいます。
「1月1日は元日」などの単なる事実やデータは、思想又は感情を表現したものではなく、「今日は雲一つなく空がきれい」といった誰が表現しても同じようになるものはありふれた表現として創作的とはいえず、いずれも著作物とはなりません。
著作権侵害が問題となる訴訟では、原告が著作権を有していると主張する表現物(小説、写真、映画など)について、著作物性があるか否かがよく問題となります。
(2)商品写真
IKEAの事件では、IKEAが著作権を有していると主張した写真はいずれも商品を撮影した写真です。商品写真では、利用者に商品の外観をわかりやすく示すことが求められるため、商品全体を正面から写すのが一般的です。つまり、撮影において相当の制約があるため、創作的な表現がなされているといえるのかが問題となります。
(3)IKEA事件での当事者の主張と裁判所の判断
IKEAの写真も、上記に掲載したとおり、見る人によっては何の変哲もない商品写真となっています。そこで、訴訟で、原告(IKEA)、被告(本件サイト運営者)がどのように主張し、裁判所がどう判断したのかを以下にまとめました。なお、裁判所の判断においては、各写真についての特徴も指摘していますので、A9、A10などの番号がでてきますが、それらは裁判で問題となった各写真の番号のことです。
| 原告の主張 | ・原告各写真は、被写体の組合せ、配置、構図、カメラアングル、陰影、背景等に独自性があり、創作性が認められる。 ・原告製品をインターネット上で販売する事業において、原告製品を独自に撮影した写真等を掲載することは可能であり、現に被告サイト事業と同種の事業を営む者のなかにはそのような方法を採っている事業者も複数存在するのであるから、本件写真等を使用する必要性はない。 |
| 被告の主張 | ・原告各写真は、オリジナリティーや創造性に欠け、背景が白であれば誰でも同じ画像が撮影可能であって、著作物性に疑問がある。 ・被告サイト事業は、原告製品をインターネット上で販売する事業なのであるから、本件写真等を掲載する必要がある。 |
| 裁判所の判断 | ・原告各写真は、原告製品の広告写真であり、いずれも、被写体の影がなく、背景が白であるなどの特徴がある。 ・被写体の配置や構図、カメラアングルは、製品に応じて異なるが、原告写真A1、A2等については、同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし、原告写真A9、A10、H1ないしH7、Cu1、B1、B2、PB1については、マット等をほぼ真上から撮影したもので、生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。 ・これらの工夫により、原告各写真は、原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み、原告製品の広告写真としての統一感を出し、商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。これについては、被告自身も、「当店が撮影した画像を使用するよりは、IKEA様が撮影した画像を掲載し説明したほうが、商品の状態等がしっかりと伝わると考えております。ネットでの通信販売という性質上、お客様は画像で全てを判断いたします。当店が撮影した画像ではIKEA様ほど鮮明に綺麗に商品を撮影することができません。」と述べているところである。 ・そうであるから、原告各写真については創作性を認めることができ、いずれも著作物であると認められる。 ・被告は、被告サイト事業においては本件写真等を使用することが必要であるなどと主張するが、原告製品をインターネット上で販売する事業において、原告製品を独自に撮影した写真を掲載することは可能であり、現にそのような方法を採っている業者も複数存在すると認められる。また、被告各文章等を被告サイトに掲載することの正当性は全くない。被告の主張は、採用することができない。 |
(4)その他の商品写真の事案
商品写真の著作物性が争点となった他の事案としては、以下のようなものがあります。
①カーテン用副資材の製造販売を行うパロマインテックス株式会社(現在:ユニテックパロマ株式会社)のカタログの著作物性(商品写真の著作物性、編集著作物としての著作物性、カタログ全体についての1個の著作物性)が問題となった事案(大阪地判平成7年3月28日)、
②ベースボール商品カタログの写真の著作物性が問題となった事案(大阪地判平成14年11月14日)
上記のいずれの事案においても、問題となった商品写真について著作物性を認めています。①の判決で裁判所は次のように述べており、②の裁判でも同様の指摘をしています。
著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しているところ、ここで要求される表現の創作性については、著作者の個性が表現の中に何らかの形で現れていれば足りると解すべきである。
これを写真についてみると、単なるカメラの機械的な作用のみに依存することなく、被写体の選定、写真の構図、光量の調整等に工夫を凝らし、撮影者の個性が写真に現れている場合には、写真の著作物(同法一〇条一項八号)として著作権法上の保護の対象になるものというべきである。
つまり、写真においては、撮影にあたって「こういう点を工夫した」「その結果、こういう点に特徴がある写真になった」ということを言えさえすれば基本的に著作物性は認められる傾向があります。
3.最後に
インターネットの普及によって、ネット上での売買が当たり前の時代になりました。Amazonや楽天などにネットショップを開設してビジネスを行う会社も多く、個人レベルでも多くの人がヤフーオークションやメルカリなどで商品を販売しています。
そのような際に、安易に同じ商品を撮影した他の販売者の画像などを用いた場合には、著作権侵害となるリスクが非常に高いことを意識しておく必要があります。訴訟にまで発展することは多くはないでしょうが、ネット上でクレームを受けたりすることは十分に考えられますので、自分で写真を撮って掲載するというひと手間を惜しまないようにすることが重要です。
弁護士・弁理士 安藤 誠悟
