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インターネット上の誹謗中傷への対応について1

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1.はじめに

 近年、インターネット上での誹謗中傷やフェイクニュースの拡散が社会問題となっています。SNSや掲示板などを通じて匿名で投稿される誹謗中傷は、個人の名誉を傷つけ、時には深刻な精神的被害を引き起こすこともありますし、会社にとっても事業の存続が困難になるほどの甚大な影響を与えることもあります。こうした状況を受け、法改正が進み、被害者救済のための制度が強化されつつあります。

 今月と来月の2回にわたりインターネット上の誹謗中傷への対応についてのコラムを掲載させていただきます。誹謗中傷への法的対応については、大きく分けて①発信者情報開示請求と②削除請求がありますが、今月は①発信者情報開示請求についてのコラムを掲載し、来月は②削除請求についてのコラムを掲載させていただきます。

 ※以下「コンテンツプロバイダ」とはX、Instagram等のプラットフォームや掲示板等を運営する事業者を指し、「アクセスプロバイダ」とはDocomo、ソフトバンク等のインターネットサービスを提供する事業者を指します。


2.発信者情報開示手続について

(1)発信者情報開示手続とは

 発信者情報開示手続とは、インターネット上のサイトやSNS等に書き込みをした投稿者の情報(IPアドレス、アカウント情報、住所、氏名、メールアドレス、電話番号等)を開示するように求める手続です。

(2)従来の発信者情報開示手続

 発信者情報開示請求については、プロバイダ責任制限法(以下「法」といいます)の2022年10月1日施行の改正(以下「2022年改正」といいます)により、その手続が大きく改められ、迅速に開示を求めることができるようになりました。

 まず、2022年改正以前の手続の手順は以下のとおりでした。
① コンテンツプロバイダへの問合せフォーム等からの開示請求
② コンテンツプロバイダへの発信者情報開示仮処分手続(①が奏功しない場合)
③ アクセスプロバイダへの発信者情報開示請求訴訟

 上記の手続では、最終的に発信者情報が開示されるまでに平均1年程度を要することもあり、手続に時間がかかることが問題視されていました(その間にアクセスプロバイダの保有しているログが消去されることもありました)。

(3)発信者情報開示命令の新設

 そこで、2022年改正では、上記の「②」と「③」をまとめて1つの手続とする発信者情報開示命令の制度が新設されました。
 発信者情報開示命令では、従来の制度よりも開示にかかる期間が短縮され、5カ月~9カ月程度の期間での開示が可能となりました。以下では、発信者情報開示命令の手続の流れを説明させていただきます。

(4)発信者情報開示命令の手続の流れ

ア コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令申立

コンテンツプロバイダを相手方として、裁判所に対し、IPアドレス等の発信者情報開示命令の申立てをします(法8条・上図①)。
※このとき、コンテンツプロバイダが実名登録サイト(ラクマ、メルカリ等)である場合には、住所氏名、電話番号及びメールアドレス等(以下「住所氏名等」といいます)の開示を併せて請求します。

イ 提供命令申立

コンテンツプロバイダを相手方として、裁判所に対し、発信者情報開示命令を本案としてアクセスプロバイダの情報を開示するよう提供命令の申立てをします(法15条1項1号・上図②)

※発信者情報開示命令の申立てを行う際、1つの申立書で、開示命令と提供命令の申立てを同時に行うことができます。

ウ プロバイダ名の提供

提供命令は、書面審理だけで数日の審理期間で発令され、コンテンツプロバイダに対して申立書送付と同じタイミングで裁判所の決定書も送られます。これにより、アクセスプロバイダの名称等が判明します。判明するまでの期間は、1週間~2カ月程度となっており、コンテンツプロバイダによって異なります(上図③)。

エ アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令申立

その後、コンテンツプロバイダから提供された情報に基づき、アクセスプロバイダを相手方として、裁判所に対し、投稿者の住所氏名等の開示を求めて発信者情報開示命令の申立てを行います(上図④)。

オ ログ消去禁止命令申立

アクセスプロバイダのログ保存期間が短い場合には、適宜、裁判所に対し、ログ消去禁止命令の申立てを行う必要があります(法16条1項・上図⑤)。この場合、1つの申立書で開示命令とログ消去禁止の申立てを同時に行うことができます。

※実際にはアクセスプロバイダに発信者情報開示命令の申立てがなされると、アクセスプロバイダは任意でログを保存することが多いとされています。

カ IPアドレスの通知

アクセスプロバイダに発信者情報開示命令の申立てを行ったことをコンテンツプロバイダに通知すると、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダに対してIPアドレス等の情報が提供されます(法15条1項2号・上図⑥)。コンテンツプロバイダによっては、この提供に1カ月程度かかることもあります。

キ 意見聴取

住所氏名等の発信者情報開示命令申立をされたアクセスプロバイダは、投稿者に対し、開示に応じるか否かの意見聴取を行います(法6条1項・上図⑦)。
 なお、コンテンツプロバイダが住所氏名等を保有している場合で、コンテンツプロバイダにこれらの開示を求めた場合にも同様に意見聴取の手続があります。

ク 住所氏名等の開示

裁判所が、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令について開示決定を行うと、投稿者の住所氏名等が申立人に開示されます(上図⑧)。

ケ 開示の通知

裁判所による決定で開示がなされると、投稿者へその旨の通知がなされます(法6条2項・上図⑨)


3.まとめ

 2022年改正により、発信者情報開示制度が改正され、従来の制度よりも迅速な手続で発信者情報の開示ができるようになりました。

 次回のコラムでは、2025年5月までに施行が予定されている「情報流通プラットフォーム対処法」(プロバイダ責任制限法から名称が変わる予定です)について解説します。同改正では、大手プラットフォーム(コンテンツプロバイダ)に対して様々な対処を義務付けることにより、広く迅速に削除を求めることができる制度が構築される見込みです。

 当事務所では、インターネット上の誹謗中傷トラブルについても数多く受任しておりますので、インターネット上の書き込みに悩まれている方は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

弁護士 白石 森生