当事務所のHPはこちらです。https://ambitious.gr.jp/

インターネット上の違法な投稿の削除請求の簡易・迅速化が図られます!!

この記事は約5分で読めます。

1.はじめに

 前回のコラムでは、違法な投稿を行った投稿者の情報を開示するための手続を中心に説明しました。投稿者の情報が明らかになり、投稿者に対する責任追及を行うことができたとしても、違法な投稿がインターネット上に残ったままでは、被害者の権利侵害は続いてしまいます。今回のコラムでは、そのような場合に必要となる、違法な投稿を削除するための手続について説明いたします。近時、削除の手続がより簡易に、そして、迅速に行われるための法改正が行われましたので、その内容も踏まえてお話しします。
 ※令和6年5月17日に公布された情報流通プラットフォーム対処法(「プロバイダ責任制限法」から名称が変わります。以下「法」といいます)の内容を踏まえて、削除請求についてお話させていただきます。

 ※以下「プラットフォーム事業者」とは、X、Instagram等のSNSやインターネット上の各種掲示板等を運営する事業者を指します。


2.違法な投稿を削除するための手続

 SNSやインターネット上の各種掲示板等に書き込まれた違法な投稿を削除するための手続としては、大きく、以下のような方法があります。

(1) 投稿者自身に対し、投稿を削除するよう直接求める方法

(2) プラットフォーム事業者に対し、当該事業者の問合せフォーム等を通じて投稿の削除を求める方法 

(3) 裁判所に対し、プラットフォーム事業者を相手方とした削除仮処分命令申立てを行う方法


3.削除請求に関する従来の問題点

 違法な書き込みは匿名でなされることが多く、投稿者が不明な場合がほとんどです。そのため、削除を求める場合には、(2)プラットフォーム事業者の問合せフォーム等を通じて削除を求めるか、(3)プラットフォーム事業者を相手方として裁判手続である削除仮処分命令申立てを行う必要があります。
 しかし、(2)プラットフォーム事業者に対して削除を請求しようとしても、申請窓口が不明だったり、対応が遅かったり、基準が不明だったりすることで功を奏さず、結局、(3)削除仮処分命令申立てを行わざるを得ないケースが多く見られました。
 他方で、(3)は裁判手続であることから、弁護士に依頼をせずに手続を進めることが難しかったり、半年以上の時間を要してしまったりと違法な投稿による被害者の救済が不十分であることが問題となっていました。
 以下の総務省が公開しているデータによれば、「①削除の申請窓口が分かりづらく、申請が難しい②放置されると情報が拡散するため、被害者は迅速な削除を求めている③削除申請をしても通知がない場合があり、削除がなされたかが分からない④事業者の削除指針の内容が抽象的で何が削除されるか分からない」等の課題が示されており、被害者救済が喫緊の問題とされてきました。

(出典:https://www.soumu.go.jp/main_content/000961409.pdf



4.情報流通プラットフォーム対処法の制定

(1)法改正の目的

 このように、違法な投稿の削除に関する被害者救済が不十分な状況を踏まえ、本改正では、プラットフォーム事業者に対し、対応の迅速化運用状況の透明化を求める制度整備が行われています。
 なお、本改正の対象となるプラットフォーム事業者は、2025年3月10日時点では公表されていませんが、1カ月当たりの投稿数が200万回以上のプラットフォームとすることが想定されています。

(出典:https://www.soumu.go.jp/main_content/000978031.pdf

(2)改正の内容

 本改正では、プラットフォーム事業者に対して以下の措置を義務付けています。

 ア 対応の迅速化

 まず、対応の迅速化に関しては、以下の3点の義務をプラットフォーム事業者に課します。


 ① 削除申出窓口・手続の整備・公表

 プラットフォーム事業者は、削除申請を行う方法を定めたうえで公表する必要があります(法23条1項)。

 ② 削除申出への対応体制の整備

 プラットフォーム事業者は、削除申請に対して、遅滞なく必要な調査を行わなければなりません(法24条)。また、この調査を行うために専門の調査員を選任する必要があります(法25条)。

 ③ 削除申出に対する判断・通知

 プラットフォーム事業者は、削除申請を受けて行った調査の結果に基づき、削除をするか否か判断し、申出を受けた日から14日以内に、判断結果を申請者に通知しなければなりません(法26条1項)。
 なお、総務省令では上記期間を7日以内とする方向で調整されています。

(出典:https://www.soumu.go.jp/main_content/000978031.pdf

イ 運用状況の透明化

 次に、運用状況の透明化に関しては、以下の2点の義務をプラットフォーム事業者に課します。

 ① 削除基準の策定・公表

 プラットフォーム事業者は、事前に削除基準を策定・公表する必要があり、削除するか否かの判断は、当該基準に基づいてなされなければなりません(法27条1項)。この基準は、総務省がどのような投稿が違法となるかを示したガイドラインに適合するように策定する必要があります。ガイドラインの内容は、現在総務省において策定中ですが、各種の権利侵害(名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害等)について、裁判例等で示された判断基準を参考にしながら策定される予定です。

 加えて、プラットフォーム事業者は、自ら運営するプラットフォームに関して、毎年1回、削除基準の運用状況を公表しなければなりません(法29条)。

 ② 投稿者への通知

 プラットフォーム事業者が投稿を削除した場合には、遅滞なく投稿者に削除したことを理由とともに通知する必要があります(法28条)。



5.本改正により予想される変化

 本改正によって、プラットフォーム事業者が違法な投稿に関して責任をもって対応を行うことが義務付けられたことにより、以下のとおりの変化が予想されます。



6.終わりに

 本改正により、インターネット上の投稿の削除請求に関する制度が改正され、より効果的に被害者救済が図られることになりました。
 当事務所では、インターネット上の誹謗中傷トラブルについても数多く受任しておりますので、インターネット上の投稿に悩まれている方は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

弁護士 白石 森生