1.はじめに
前回のコラムでは、インターネット上の権利侵害情報に対する削除対応の迅速化、運用状況の透明化に向けた制度の骨格を説明しました。
情報流通プラットフォーム対処法(以下「法」といいます)の改正の全体像は以下のとおりです。

今回は、法が2025年4月に施行され、制度が運用され始めた後の状況として、指定事業者の指定、削除申出窓口及び削除基準の整備、運用状況公表の三点を中心に、2026年2月10日時点の情報を整理します。
2.事業者の指定状況
法は、すべてのSNS等の事業者に一律の義務を課す構造ではなく、総務大臣が指定する大規模な事業者に対して、削除対応の迅速化や運用状況の透明化等の義務を課しています。
指定の基準は、施行規則とガイドラインで具体化されていますが、平均月間発信者数の基準が1000万人、平均月間延べ発信者数の基準が200万人とされています。
施行後に指定された事業者と対象サービスは、地方公共団体の公表情報等から次のとおり確認できます。2025年8月1日時点で以下の9社が指定されています。
| No. | 事業者名 | (参考)サービス名 |
|---|---|---|
| 1 | Google LLC | YouTube |
| 2 | LINEヤフー株式会社 | Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス LINEオープンチャット、LINE VOOM |
| 3 | Meta Platforms, Inc. | Facebook、Instagram、Threads |
| 4 | TikTok Pte, Ltd. | TikTok、TikTok Lite |
| 5 | X Corp. | X |
| 6 | Pinterest Europe Limited | Pinterest |
| 7 | 株式会社サイバーエージェント | Amebaブログ |
| 8 | 株式会社湘南西武ホーム | 爆サイ.com |
| 9 | 株式会社ドワンゴ | ニコニコ |
実務上は、個別の事業者名を検索して窓口を探すよりも、公的機関が整理したリンク集から入る方が確実です。例えば、新潟県は、指定9社について、削除申出窓口と削除基準のリンクを一覧化しており、利用者が参照できる形で整理されています。
https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/fukushihoken/r7-jinken-sns-jinkensingai.html
3.削除申出窓口の整備状況
(1)削除申出窓口の要件
施行前から多くのプラットフォーム事業者は通報窓口を設けていましたが、窓口の所在が分かりにくい、判断の理由が示されない、基準が不透明といった課題が指摘されてきました。こうした課題を解消するため、法は、被侵害者が削除申出を行うための方法を公表する義務を定めています。
ガイドラインは、申出を受け付ける方法について、インターネット上で申出ができること、申出者に過重な負担を課さないこと、申出を受けた日時が申出者に明らかになることの三点を求めています。
過重な負担を課さない具体例としては、トップページから少ないクリック数で到達できること、文字制限のない記入欄や証拠の添付など十分に情報提供できるフォームであることが挙げられています。
また、申出方法は被侵害者が日本語で申出できるものであること、インターネットを利用して公表することを求めています。
(2)事業者の対応期限の定め
申出者への通知期限については、施行規則が、法25条1項の総務省令で定める期間を7日と定めています。従来は、削除を求めても通知がない、削除されたか分からないという不満が多かったところ、期限を区切って通知を求める設計は、実務上の効果が大きいといえます。
もっとも、発信者の意見を聴く場合や専門員による調査を行う場合など、一定期間内に結論が出ない旨の通知にとどまることも認められています。期限を前提にしつつも、例外があり得ることは押さえておく必要があります。
4.削除基準の公表状況
透明化の前提として、指定事業者は送信防止措置の実施に関する基準を策定し、公表することが求められます。
施行規則は、基準の公表に関する一定の周知期間を14日と定めています。
(※)新潟県が公表している一覧では、指定9社について、外部から参照可能な形で削除基準へのリンクも整理されています。少なくとも、基準の所在が分からないという従来の問題は、一定程度改善されたと評価できます。
5.運用状況の公表
(1)公表の義務化
法は、基準の存在を形式的に示すだけではなく、実際の運用を検証可能な形で可視化することを重視しています。施行規則は、公表年度を4月1日から翌年3月31日までと定義し、措置の実施状況等の公表は、公表年度経過後2か月以内に、インターネット上で行うべきことを定めています。
この設計からすると、2025年4月1日から2026年3月31日までの実績について、2026年5月末までに初回の公表が順次なされることになります。2026年2月時点では未公表ですが、2026年5月末日までに公表がなされ、各社の削除申請への対応状況の検証が行われるものと思われます。
(2)公表事項
公表事項について、施行規則は、申出を受け付けた件数を理由別に区分して示すこと、申出者への通知件数や通知しなかった理由、発信者への通知等の件数や通知しなかった理由などを掲げています。
さらに、利用者からの通報や公的機関からの要請を受けた場合の送信防止措置の件数など、削除の入口が申出に限られないことも前提に整理されています。
加えて、総務省が支援する違法・有害情報相談センターは、指定事業者の義務の履行状況に関する報告フォームを設け、削除申出者や発信者から、通知が来ない、削除基準が見つけづらいなどの報告を受け付けています。
6.終わりに
法の施行後、削除申出窓口と削除基準の整備は、少なくとも入口の分かりにくさという従来の課題に対して一定の改善をもたらしました。
今後は、2026年4月以降に予定される運用状況公表によって、各社の対応がどこまで迅速化され、どの程度透明化されたのかが、具体的な数字をもって検証できる段階となります。
インターネット上の権利侵害は、放置すると被害が拡散しやすい一方、初動の整理次第で解決の見通しが大きく変わります。
困っている場合は、早い段階で専門家に相談し、必要な証拠の確保と手続選択を含めて方針を立てることをお勧めします。
なお、インターネット上の書き込みに関する相談については、以下の画像のとおり、総務省HPにおいて相談や通報の窓口を整理して公表していますので、ご参照ください。
弁護士 白石 森生
